Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(149)

 雪のせいで、離れに辿り着くだけで、もう一仕事終えたような気分だが、まだ現場に辿り着いただけで、何も始まっていない。空を見上げるとまだまだ雪は止みそうにない。帰りまでにどれだけ雪が積もっているか想像しようとしたが、足跡に積もる雪を見ると、怖い想像になりそうなので、やめた。
 離れの入り口のドアを開けると、クリスが待ちかねた様子で立っていた。
 「……中で待っていればよかったのに。寒かったんじゃないのか?」
 寒さのせいで、口がうまく回らなくて、口にしたはずの言葉が、違って聞こえる。
 「中には一回入ったんだけど、…なかなか来ないから、遭難したのかと思って」
 ……何で二人とも俺を遭難者にさせたがるんだ?
 「それに、一人で中で待ってると、妙にうすら寒くて。…気のせいだといいんだけど」
 「……それは…「龍」関連で?」
 入り口のところで外套についた雪をはたき落していたクラウディアが話に加わってきた。
 「…それは、判らない。…もしかしたら、ただ単に、あっちの方が広いからそう感じるだけ、かも」
 「まあいいわ、揃ったところで、部屋に入りましょ。雪に埋もれる前に用事を済ませないとね」
 クリスの顔が緊張でこわばる。その様子を見たクラウディアが顔をほころばせる。
 「別にあんたを急かしてる訳じゃないわよ?あんたが潜る前に、「王子様」にかかってる魔法をじっくり観察させてもらわないとね。…だから、ちょっとだけ待っててちょうだい」
 …だったら、俺の事なんか待ってなくても良かったろうに。そんなに遭難しそうに見えたのか?
 「…何なら二人でいちゃついていても構わないから」
 その一言は余計だ。
 「……観察、って、まだ調べてなかったの?」
 「昨日見せてもらっただけでは、時間が足りなくてね。…なんでああも逃げ腰なんだろうね、あの人たちは」
 「「金瞳」が怖いんですって。…まあ、わたしが余計に怖がらせるような事をしでかしちゃったのかも」
 「怖がらせるって…いったい何をしたの?」
 クラウディアがクレメンス大公のベッドがある部屋に通じるドアを開けながら訊ねる。
 「わたしが何かしたってわけじゃ…」
 ほんの一瞬、クラウディアが室内に足を踏み入れた時、部屋の中が明るくなった。
 「…今のは、何?雷、ってわけでもないわよね?そんな天候じゃないし」
 第一、明るくなったのは室内であって、窓の外じゃない。
 「…………さあ、何でしょうね?魔法の気配は感じたけど、すごく弱かったから「龍」の仕業ではなさそうね」
 「結界とか、そういう感じの?」
 「んー……害意とか、拒絶する感じは無かったけど…一瞬だったから」
 「それよりも、ここにかかってる魔法が、ちゃんと機能しているか確認した方が良くないか?…なんだか温度が上がってきている様な気がするんだが。…外から入ってきたばかりなので、気のせいかもしれないが」
 「…それもそうね。この場にかかってる魔法全体をどうこうできるような強い力ではなかった、と思うけど、影響を及ぼさないとも限らないし。…じゃあ、そっちの方はあなたたちに任せるわ。私には、正常な状況がどうだったか判らないし。例えば温度とか」
 そう言われると……温度設定までは…把握していないな。
 「わかった。そっちは私が点検する。…私に見つけられなくて、あとから異常が見つかっても責任は持てないけどね」
 クレメンス大公の方に向かうクラウディアから返事が来る。
 「まあ、回収できる不具合なら、なんとかしとくけどねぇ…そこまでの面倒は見なくていいんじゃないかと思うわよ?こういうところで働いてる魔法使いは、縄張り意識が強いから下手に手出しすると逆恨みしかねないから。…まぁ、あんたは別でしょうけど」
 「…そういう扱いは不本意だけど……うん、それはわかる。…昨日だって、本当なら、陛下に手も触れさせてもらえないはずだ、と思うし」
 「あんたの余禄でお目こぼししてもらってる立場で言う事じゃないけど、せっかくの特権、使わないと損よ?…節度を持って、の上だけどね」
 「…焚きつけてるんだか縛めてるんだか判らないな」
 肩を竦めてクリスがこぼす。
 「…で?どこから調べる?」
 改めてこちらに向き直ったクリスが、頭の上からつま先まで眺め下ろす。
 「……その前に、コート脱いだ方がいいんじゃない?雪まみれだし」
 そう言って、手をのばしてくる。
 「一応、外で払ったんだけどな」
 「頭下げて。見える範囲しか払ってないでしょ?」
 ああ、頭の上、ね。確かにそこまでは気が回らなかった。
 言われるままに頭を下げると、雪を払った手が、続けて髪の間を通る。
 「王宮に居る間は、毎日梳かすように、って言ったのに。…さぼったでしょ?」
 「……そんな暇、無かったじゃないか」
 「今日はそうだったけど、一日二日じゃないでしょ、これは」
 二日も三日も大差なかろうに。

#日記広場:自作小説

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2010/01/23 20:33
読んだら印つけときます・( *´艸`)



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