消えた翼 (2)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/02/09 20:41:32
ことの発端は、彼女の背にまだ純白の羽があった頃のこと。
彼女も他の下級天使と同じく、完璧な秩序の中、規則正しく規律を守り行動していた。だが、悪く言えば感情に乏しく、言われるがまま動く機械のようなもの。
しかしそれが彼女らにとってごく自然のことであり、全くの無感情というわけでもなかった。それぞれに、些細ではあるが趣味のようなものを持っていたし、仲間同士で笑いあうこともあった。ただ、人間のように強い感情、欲求がないだけである。
ある日、自室で本を読んでいると、禁書が彼女のもとに届いた。そこには人間の男の顔写真と、「干渉を一切禁じる」という内容の文書。詳しい説明もなく、ただその人物が危険であるとだけ書かれてあった。 よくよく見てみると、これは上級天使に宛てたもので、下級天使の彼女のもとには届かない書類であった。
「こんなものが届くなんて。今までにこんなことがあっただろうか。 それに、この男が危険……? 人間同士ならいざ知らず。我々に危害を加えることなど出来ようはずもない。」
呟きながら、彼女はもう一度顔写真を見つめた。男からは陰湿さも、明るさも感じられない。どちらかと言うと、普段顔を合わせている仲間の雰囲気によく似ている。
暫く考えた後、彼女はその書類を引き出しにしまった。
それから少しずつ、彼女に変化があらわれる。
他の仲間との接触を極端に減らし、部屋に籠るようになった。数日後には、天界から下界を眺める時間が増えた。それも全てが全て、あの男のことであった。
「生まれたときから疑問に思っていた。 誰に聞いても解らないと言う、この胸に感じる焦りや不安。 だが、この男を見ていると、次第にその気持ちが治まっているのがわかる。 どうしてだろうか。無性にこの男に会いたい……」
写真を見ていた彼女は、自室の机に突っ伏して大きくため息をついた。
「けれども神が、あの御方が決めたことがどうしても気にかかる。 やはり、禁書を破れば罰を受けるだろうか。あれは上級天使宛ての物。知らを突き通せば何もないかもしれない。 ほんの少し会うだけで、いったい何が変わると言うのか」
しかし、彼女はそれ以上のことを考えることは出来なかった。神は絶対だ。自分にそう言い聞かせることによって、彼女は心の均衡を保っていた。
男の最期を知る、その時までは……
いつもと同じように自分の仕事を終えて地上を眺めていると、男の身体がやけにくすんでいるように思えた。もう一度確かめてみても、そのくすみは無くならず、むしろ増えていく一方である。
これは、死の兆候。
幾度となく見ていたそれをすっかり忘れてしまうほどに、彼女の頭には男のことしかなかったのだ。
(彼が死ぬ 彼が死ぬ 彼が、彼が、彼が……!!)
それを理解した途端。初めて味わう恐怖と、強烈な焦燥感が彼女の身体を硬直させパニックに陥らせた。彼女だけが感じていた、「孤独」と言う感情は、今まで以上に強烈で耐えがたいものへと変わっている。
「今すぐに彼に会わなければ、この身が苦しさのあまり蒸発し消えてしまいそうだ……! 嗚呼、けれど神がお許しにならない。禁書に出してまで注意を促した人間だ。最期を見届けないわけがない。 神よ! どうして私に酷い仕打ちをなさるのですか。私に彼の存在を知らせ、会いに行かないではいられない感情を 何故お与えになったのです!」
そうして、彼女は地上に降り立ち、彼の魂に出会ってしまった。
彼女の行動は以外にも発見されるのが遅く、そしてそれが彼女をあんな姿にさせてしまった。
罪を犯した彼女の行動に、報告を受けた上級天使は困惑し憤った。それまでの過程からして今までにないことであったし、捕まってからの彼女の言動も前例がないものであった。
目を見開き、大声で神を愚弄し暴れる彼女を抑えるのに、いったい何人必要になっただろうか。
彼らには彼女をどう扱えば良いのかわからず、それ故に彼女を神の御前に連れて行かざるを得なかった
神は彼女の所業を聞き、本人を目の前にしても何の感情も表わさなかった。そして静かに判決を言い渡す。
男の魂を地下牢獄へ、下級天使は羽を切り取り堕獄行きとする。
二人に下されたのは極刑。 だが、それに加えて温情、もしくはそれ以上の罰が彼女に与えられることとなる。
それは、男の監視役に任命し、共に牢獄へと向かうこと。そして、男の魂を解放させるには、彼女を男が見つめることであった。
感情を露わにした天使は罪を犯し、羽をもぎ取られた。堕獄した天使は、地下牢獄でいったい何を思うのだろうか。






























次は展開がすこし変わりますのでご注意をば(^_^;)
聖書に出てくる神は慈悲の神、そして熱情の神(英語ではjealousy)の神でもあると言われます。
自分よりも他のものを選んだ者を罰するということでしょうか。
続きが楽しみー!!
面白いです!とっても続きが気になります~(≧∇≦)
早く次が読みたいですw
ぜひお願いします。
彼女に課せられたその役目は、やはり罰だと思います。