消えた翼 (5)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/02/13 18:56:54
童話の世界のように青々と、緑豊かな草原を楽しそうに走り回る少女がいた。
花に集う蝶を笑顔で追いかける少女の腕は、触れると壊れてしまいそうなほど細い。身体もその年齢よりは小さかった。けれども、その身体には不可能なほどの活発さで、軽々と小高い丘を駆け上がっていく。
頂上まで辿り着くと、視界の先に人影を見つけた。少女は湧き出る幸福感とともに、風のような速さでそこへと向かう。
『パパ、ママ。大好き!』
飛びつきざまにそう言うと、父親は穏やかな顔をして少女の頭をなでた。隣にいる母親も微笑んでいる。その手の中にある、青い瞳の人形もこちらに笑いかけているようだ。
『わぁ 可愛いお人形。私、これが欲しかったの』
嬉しそうに笑う少女の頬には、以前と同じように柔らかな膨らみと花のように鮮やかな温かみがあった。
幸せそうに微笑む少女を両親は慈しむようにそっと腕に抱く。
少女は二人に抱かれながら、胸一杯に二人の体温を感じた。どうしようもないほど愛おしく、鼻の奥がつんと痛むほど切望していたこの香りを。
両親の腕の中で幸せなひと時に酔いしれていると、巨大な丸太が倒れたような音がして、少女は目を覚ました。
青白い薄暗がりの中、ベッドの上で暫くの間少女は自分が置かれている状況を理解できずにいた。殺伐とした狭い部屋には、人形の一つもない。
確か自分は、草原の上で父や母と遊んでいたはずなのだが……。
ぼんやりとした頭が次第にはっきりしてくると、現実が少女の心を夢見心地から引き離す。恥ずかしいような悲しい気持ちで、頬に伝う痕から再び涙が流れ落ちる。少女は全てを隠すように枕に顔をうずめた。
大きな音が下の階で聞こえ、びくりと、少女の身体が強張った。
ベッドの上で小さな身体を震わせながら、今日もまたいつもの嵐が過ぎ去るのを少女は待った。酒に酔った父が、母に暴力を振るっているのだろう。
最初のころは何が何だかわからず、顔を腫らしている母を見ると可哀そうでならなかった。だが、今ではただ恐ろしいだけで、母に対して何かを思う余裕は無くなっていた。明日、今度は自分の番になる。例え部屋に籠っていたとしても、母はやさしい声でこう囁くのだ。『愛しい娘、私を独りにさせないで……』
今日も始まった、この恐ろしい行為が早く終われば、彼女への折檻も短くなる。少女はひたすら神に早く終わるよう、祈り続けた。
だが男のうめき声が聞こえ、いつもと状況が違うことに少女は気がついた。
痣だらけの足で、少女は音を立てないようドアに近づいた。ドア下から漏れる明かりを確認しつつ、聞き耳を立てる。
声はあまり聞こえなかったが、何かを痛めつける音だけは聞こえた。聞きなれた音だが、いつもと響きが違う。断続して聞こえるそれは、一切の容赦がない。
暗示を掛けられたかのように、ドアの前で少女の身体はぴくりとも動けなくなった。少女はただ、明りの消えたドア下を凝視するだけ。
音はすでに止んでいる。
「最近はやけに物騒な事件ばかり続くわね」
女は、同じく神妙な顔つきでテレビニュースを見る男に話しかけた。
テレビ画面には、『ジェイムス一家殺害』とテロップが流れており、事件現場が映されていた。
事件の詳細を現場にいる若いレポーターが語り始める。
『昨夜、町はずれの民家で一家が何者かに殺害されているのが見つかりました。玄関から侵入した犯人は、女性物の傘でジェイムス夫人を殺傷し、ジェイムス氏を鈍器で殴りつけ殺害した模様です。 二階の寝室で休んでいた娘のマリアさんには目立った外傷はなく、死因は窒息死によるものだと警察は発表しました。 この事件は先月起こった一家殺人事件と酷似しており、マリアさんも両親から虐待を受けていたとの報告が入っています。当局はこれを……』
ブツンと、男がテレビを消した。投げ出すようにリモコンをテーブルに置き、いつもより早く席を立った。
テーブルには飲みかけのコーヒーと冷えたトースト。爽やかな朝とは程遠い空模様が部屋を暗くさせていた。
男は壁にかかってあったハンガーから背広をとると、鞄と車のキーをもって玄関に向かう。
玄関に向かう廊下には、二人の写真が飾られてある。幼いころの写真や最近の写真。そして手作りの額縁には、結婚式場で大勢の人に祝福を受けている二人がいた。枠には『ジョーイ&メリッサ』と書かれてある。
「メリッサ、仕事に行ってくるよ」
玄関まで見送りに来たメリッサの頬に軽くキスをして、ジョーイは玄関の取っ手に手をかける。
中途ですが、文字数が2000を超えるので(6)に続きます






























嬉しすぎてどもっちゃったよ(^^)
意味がわからんと言われたこの小説
少しばかり手直ししてるので、読みやすくなったのかな
これからも頑張るよ!
なので、(1)から真剣に読んでしまいました!
ご小説のストーリーや、言葉・・・凄すぎて感動しました!
これからもがんばってください!応援しています