消えた翼 (6)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/02/13 20:22:31
「いってらっしゃい。 気をつけてね。 今日は何時に帰ってこれそう?」
「うん。当分は定時に帰るつもりだ。 さっきのニュース。犯人は捕まってないだろう? 事件現場はここからそう遠くないし。 戸締りをしっかりしておくんだよ」
そう言って扉を開けると、ひんやりと湿気の含んだ風が入ってくる。極暑の季節も過ぎ去り、庭先には落ち葉が目立つようになってきた。
同じ事を思っていたのか、二人して外を眺めていたが、空を見上げたジョーイが何かに気づいた。
「メリッサ、すまないが傘をとってくれ。今日は雨が降りそうだ」
ジョーイの指さす方向には、鈍い色の雲が群れを成し始めていた。
最近の天気予報は当てにならない。テレビでは今週は晴れが続くと話していたのだが。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「ううん、大丈夫。 はい、傘。早く帰ってきてね」
心配そうに見つめるジョーイを笑顔で送り出し、車が見えなくなると女は遠くの空に一瞥して家の中に入って行った。
部屋に戻ると、女は再びテレビをつけた。
こういう事件はある程度組み込まれるものだが、魂に影響を及ぼすような、悲惨なものはないはずだった。
苦渋な面持ちで女はテレビ画面を見つめる。画面はさきほど消した時と同じ映像でとまっている。
女がチャンネルを変えるとその画像は消え、ある廃墟ビルが映し出された。
暗澹たる部屋には男女が一組。男のほうは横になり、目を瞑っている。女のほうは蒼い瞳をこちらに向けていた。 この女の名前は、メリッサ。女が誕生した時に、神がそう名付けた。
この世界は実際には存在しない。 メリッサが男のために作った虚構である。
ある一定の人物にはこういった『更生プログラム』が適用され、それも天使が行う仕事の一つだ。
天界に還っても、魂の浄化が見込められないような人間に対し行うそれは、人として真に望むべき一生を送らせる。 神によって作られた、マニュアル道理に天使が導き、道徳的な幸せを感じさせる。それによって魂の洗浄をするのだ。 洗浄された魂は、そのまま新しく地上で生を受け、記憶の無い教訓によって正しい道を歩んでいく。
こちらでの男の日々は、平凡極まりないものだった。心優しい両親に友人。幼馴染との結婚に、中小企業への就職。 現世ではなかった生活を男は送っている。
メリッサが、世界に暗幕を下ろした。実際は時間を押し進めただけであって、現実世界では「日が暮れた」と言うだろう。
外は嵐。ジョーイが言っていたように、矢のような雨が窓ガラスをたたく。閃光の後に遅れて、大岩が地面を暴れまわるような音が辺りに轟いた。
「今、彼がいる場所は……」
再びテレビ画面が変わる。今度は嵐の中を見慣れた乗用車が映し出された。
視界の悪い前方を必死に目を凝らしてジョーイが家へと帰ってくる。近所のガソリンスタンドを通過し、真っすぐ走れば家の明かりが目に入るはずだ。
メリッサはテレビの電源を切り、実内を夜の装いに変え、今作り終えたかのような料理が食卓に並んだ。それから間もなくして、ジョーイの車の音が聞こえ始めた。
玄関を開けて入ってきたジョーイは頭から先まで雨水でびしょ濡れであった。
「ああもう、そこでストップ! タオル持ってくるまで待ってて」
玄関まで出迎えたメリッサは、そのままUターンして大きめのバスタオルを持って戻ってきた。髪を拭かれながら、ジョーイは子供のようにくすくす笑っている。
「妻の安全を守るために、大急ぎで帰ってきたんだよ。もうちょっと優しく扱ってくれてもいいんじゃないかな?」
「奥さんの安全を確認したのなら、今度はカーペットの心配をして欲しいわ。 もう、泥が付いてるじゃないの。靴も早く脱いじゃって」
ジョーイが身体を拭いてガウンに着替えている最中に、メリッサは雨に濡れた背広を乾かそうとハンガーにかけ、ポケットの中身を取り出していた。
「こんなに濡れて。 たしか傘を持って行ったはずじゃなかったかしら?」
眼鏡をはずし、濡れてぼさぼさになった髪のジョーイはいつもより幼く見えた。傘のことを聞かれて彼は照れたように笑う。
「同僚が歩きなのに傘を持ってきていなくてね。 僕のを貸してあげたんだよ」
右ポケットを調べ終わり、左のポケットに手を入れると柔らかい生地の小さな布があった。ちらりと覗くと、女性物のハンカチのようだ。
もちろん、これは彼の趣味ではない。それに彼の物は既にとりだしていた。
メリッサはいたずらっ子のように口の端を持ち上げ、彼に探りを入れてみた。
「へぇー。それでかわりにハンカチを貸してもらったのね。 どんな女性だったのかしら。 きっと綺麗な……子供?」
またもや、文字数が限界(^_^;)
今日は昨日の分も含めて 二つ投稿します






























そういうことだったんですね!
続きが楽しみ~!わくわくです。