消えた翼 (7)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/02/14 21:21:32
取り出したのは白いレースのハンカチ。それにウサギのプリントが全面に印刷されていた。これはどう考えても大人の物ではない。
困惑してそれを見つめていると、ジョーイが笑いながら話しだした。
「同僚、今日はたまたまた子供と一緒でさ。僕の傘は大きいから、子供と一緒でも使えるだろう? そしたら、その子がお礼に渡してくれたんだよ」
子供好きのジョーイは、目を細めて嬉しそうにそう言った。
「今度会ったら返してあげないと。 お気に入りみたいだったから」
この世界にいる限り、ジョーイがメリッサを裏切るなどということはないのだけれど、たまに問題を起こしてみたくもなる。そんな自分の考えに、メリッサは我ながら笑うことしかできない。
男は死を直前にしても世界に対して何も感じていなかった。だが、この世界ではとても無邪気な表情を見せる。彼の中にもこんなに素晴らしい感情があるのだ。メリッサは自分の行動は間違っていなかったと、楽しそうに話す彼を見て誇らしく思った。
きっと、禁書が私のもとに届いたのも、私になら出来ると神がお考えになったからのかもしれない。
二人が寝静まった夜。依然として強い雨と風が外を暴れまわっている。叩きつけるような雨音が、打楽器のように鳴り響いた。
明かりの消えた真っ暗な部屋で、何の前触れも無くテレビの電源がつく。
砂嵐が続く中、途切れ途切れに映像が映し出された。
大量の雨を一身に受け、どこかの民家の庭先に男が一人佇んでいる。家の窓は嵐だと言うのに開け放たれており、ぼんやりとした明かりが闇の中を左右に揺れていた。
真っ黒だった男のシルエットが一瞬、近くに落ちた雷によって浮立った。コンマ何秒の映像。それなのにあまりにも鮮明な赤は、画面に残像のように残っている。その男の手には白いハンカチが握られていた。
次の朝、連続殺人事件のニュースが流れた。
ジョーイをいつものように送りだすと、メリッサは一人、物音も何もしない家で呆然とソファーに腰掛けていた。
少しのずれならばそのまま無視してもよかったのだが、最近になって可笑しなことが多くなっている。だからメリッサは今日の出来事を全て決めていたのだ。それなのにで初めから覆された。今日ニュースに流れるのは、郊外で起こったハリケーンの被害状況のはずだった。 結果は、酷似した家族構成の一家殺害。
この世界は虚構で、たとえ住民が死んでしまおうがたいした問題ではない。ここの住民は神が創った人形のようなもの。人間のように感情があり不安定ではあるが、この世界の役割を忠実にこなしている。この世界で死んでしまっても、別の虚構の世界で、違う魂のために生活を送っているのだろう。
だが、今回の死に方はあまりにもおかしい。家族関係からしてこの世界にはふさわしくない。ここには狂気殺人、テロ、大規模な自然災害などは起こるように創られていないのだ。強盗や火災などなどの事件は、ニュースの飾りとして勝手に作られるだけで、実際には起きてなどいない。
メリッサは静かにソファーから立ちあがり、膝をついて手を組み瞳を閉じた。
「可愛そうな住人達……他の世界では平穏な生活が送れますように。そして、これ以上被害者を出させぬよう、主よ見守り下さい。
そう言った後に、これは神に内緒で始めたことだということを思い出した。
「ふふ、馬鹿ね私ったら。これは私一人の力で終わらせなくてはならないのよ」
メリッサは勢いよく立ちあがると、テレビの操作に向かった。まずは、彼の生活で変わったことがなかったのかを探さなくては。
しかし、どんなに探しても何の変化も見いだせなかった。時間どおりに出勤し、デスクワークをこなし、同僚と軽い昼食。そして仕事を終えて、車で帰ってくる。どこもおかしなところなど無い。
「原因は彼じゃないのかしら……」
過去に遡って映像を見ていても何も得ることはなく、メリッサはテレビの電源を消した。その日もいつものようにジョーイは家に帰ってきて、いつものように一日が過ぎた。何も怪しい動きなどない。
(当たり前だ。あの時の男とは違うのだから……
己を悪魔だと思い込み、人間は愚かな存在だと決めつけていた男。メリッサはその男の狂気を取り除き、わずかにあった情だけを残した。今の彼は普通の人間より道徳的であろう。
今回はここまで





























