消えた翼 (9)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/02/17 01:52:13
悲しそうに目を伏せて彼はそう告げた。
メリッサの心臓が不可思議に動く。仕事として監視していたのを感づかれたのだろうか。
「小学校の頃もそうだった」
急におどけた口調になって、わざとらしくため息をついた。
「僕の隣にクラスで一番人気の女の子が座った日の夜。君は僕に婚約の契約書を書かせたよね?」
そういえば、隣近所に住んでいた私たちは、時間も気にせずよく片方の家に遊びに行っていたのだった。
ベッド脇のライトしか付いていないというのに、彼女の頬が急に熱を帯びて赤くなる。
「大学の時もそうさ。彼女へ渡す誕生日プレゼントを友達に付き合わされて選びに行っただけなのに、君は浮気だと勘違いして落ち込んでいたよ」
恥ずかしい過去の想い出に、メリッサは顔を両手で覆って今にも泣きだしそうだった。けれど、未だにメリッサの身体は彼の腕の中だったので見動きすら出来ない。
「そんな昔のことを持ち出さなくたっていいじゃない」
真っ赤に染まった顔をジョーイに見せないように、まだ何か言いだそうとしていた彼の胸に押しつけた。
ジョーイの笑い声の振動がメリッサに伝わるほどに、彼女の恥ずかしさは増していった。
「いつも言っていただろう」
そうジョーイは優しく囁いて、メリッサにこちらを向かせる。
「僕は君を、君は僕を愛す。それが絶対なんだ。僕が他の女性を愛することなんて、あり得ないことなんだよ」
いつもの穏やかな笑顔。メリッサは強く、ジョーイの身体を抱きしめ返した。
安心という思いではなく、不安という思いで。
そこから数メートル離れた、薄暗く湿った別室。 そこにベッドの上で横にもならずにただ座っている者がいた。その子は大きな瞳を瞬きもせず。真っ直ぐ向いている方向には、天使が一人いるだけだった。
今朝は休日だというのに慌ただしかった。ジョーイの会社で問題が発生し、その収拾に彼がかりだされたからだった。
「何もエミニーが来てる時に問題が起きなくても……」
朝食もそこそこに、ジョーイは玄関に向かいながらぶつぶつと文句を言っている。地下室の扉の前まで行くと、時計と扉を交互に見ながら彼女に会ってから出かけようかと考えているようだった。
「旅の疲れもあるはずだから、寝させておきましょうよ。 きっとすぐに帰って来れるわ」
なだめるように言うと、ジョーイは名残惜しそうにも出かけて行った。
一人でゆっくりと朝食をとっていると、いつの間にかエミニーが部屋の入り口で立っていた。無表情に部屋を見渡すと口を開く。
「ジョーイは居ないのか」
挨拶も無く。また、メリッサに向けて話しているようでもなかった。
無言でテーブルまで近づき、メリッサの食器を眺めて鼻で笑う。
「こんなもの食べて楽しい?」
笑うでもなく、口の端を持ち上げる。無意味な子ども遊びだと、細めた目から蔑んでいるのが見てとれた。
悪魔の到来に、メリッサは固まったまま動けないでいる。
それを無視し、エミニーは部屋の中を興味深そうに物色し始めた。
軽やかに部屋の中を移動し、儚げな旋律を口ずさむ。小窓のもとまで行くと戸を開け、木枠にもたれかかった。
「ふふ、可愛い小鳥」
世界は一枚の絵のように姿を変化させることはなく。木枠にとまろうとしている鳥は、剥製のように羽を伸ばしたまま宙に浮かんでいる。それを指で優しくなぞっていたエミニーは、急に力強く小鳥を掴み紙屑のようにばらばらに捨ててしまった。
振り向くと、年相応の笑みを浮かべてこう聞いた。
「別に結婚しなくてもよかったんじゃないの? ほら、他にいくらでも方法はあったでしょ」
そう言って、エミニーはテレビの方を指差した。
突かれたくないところを突かれ、メリッサは怒りに震えた。
(お前に私の何がわかる!)
憤りを抑えられず、目を釣り上げ歯をむき出しになってメリッサは威嚇する。
メリッサの表情が険しくなればなるほど、室内の気温は上昇し、家具が熱で焼け焦げていく。
「あら、怒らせるつもりはなかったのだけど。ただ、純粋に聞いてみたかっただけよ。だって、貴方は……」
ドアノブの動く音がして言葉が切れた。
我に返ったメリッサとともに、室内も元通りに戻る。
「おかえりなさいジョーイ。 朝の挨拶ができなくてごめんねー」
メリッサよりも先に声を掛けたエミニーはジョーイに飛びつき、頬にキスをする。
『なぜ結婚したのか』
もちろん男を正しい人生に導かせるためである。ただ、それは遠隔操作でもよかった。そのほうが早く更生させることが出来るのだ。
(自分でもわかっている。 度が過ぎたのだ……)
当初の目的は既に達成している。それでも尚、メリッサは終わらせることが出来ない。
気持ちの悪い汗をかきながら、メリッサは窓の外を眺めた。もう夜なのに、外はまだ明るい。
あとちょっと~ 後半はだいぶ書きなおしたなぁ(^_^;)





























