消えた翼 (10)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/02/19 01:36:45
気がつくと三人で食事をとっていた。
いったいいつからこの場所に座っているのか判断しにくいが、いつもの日常に一人増えただけで何も変わらない。 この人との間に子供が出来れば、いつの日か訪れるであろう賑やかな食卓。ぼんやりする思考の中で、メリッサは夢うつつにほほ笑んだ。
笑みが消えたのは、家の前をパトカーや救急車などが何台も通り、突然騒がしくなったからだ。
サイレンの音が止まっても、外では暗闇と赤いライトが交互に繰り返される。
「近くで何かあったみたいだね。 ねぇ見に行ってみようよ」
エミニーがはしゃぎながらメリッサに話しかける。危険だからと、諭すように話そうとして口を閉じた。
(自分は何をしているのだ?)
隣にいるジョーイは、周囲の状況に不自然なほど気にせず食事を続けている。すぐ傍には鳶色の目を熱した砂鉄のように輝かした悪魔がいるというのに。
「ね、行こうよ。もし殺人事件だったらどうするの? 犯人捕まってなかったら怖いじゃん」
実際、何が起こっているのか確認しなければならないのは確かだった。だが、メリッサはこの世界を閉じるつもりでいたはずだった。それなのに、どうしてこんな状況になっているのか理解できない。
「ジョーイも行かない?」
無駄にはしゃぐエミニーがジョーイに声を掛けるが、軽く首を傾けて食事を続けた。
外に出ると、道路は昼間と違った雰囲気をかもしだしていた。
オレンジ色に光る電灯が点々とおかれ、その鈍い反射のおかげで道路は血に染まっているかのようだ。
小さなガソリンスタンドには、既に何人か集まって小さな塊が出来ている。中心には慌ただしく動く警官や救急隊。ちらほらと報道局も集まっている。
その中に、見慣れたガソリンスタンドの店員が警察と話をしていた。
「きっと殺人だねぇ。 どうする? また死人出しちゃったよ」
こちらの表情を上目づかいに確認して笑うエミニーを無視し、店員のもとへと大股で近づいて行った。
「騒がしいけど、何かあったの?」
話しかけられた店員は、見知った人間に会って少し緊張が解れたような顔をした。
「あぁ、メリッサ。 恐ろしいよ。とうとう殺人鬼がうちらの町にも現れたみたいだ。俺の店で死体が見つかったんだよ。 恐らく、今日の昼ごろだろうって警察は言ってる」
後ろの方でくすくす笑いが聞こえる。
「今頃ニュースになっているかもな。殺されたのは一人だけじゃない。ここの、男の家族も殺されたらしい。妻と、8歳の息子だそうだ」
呆然と立ち尽くすメリッサの前で、運び出される死体袋が彼女の目に映った。袋はいびつな膨らみをしていて、人間が入っているとはとても思えなかった。それを察した店員は、吐き気を我慢するように声を絞り出す。
「傘が、男の身体に刺さってるんだ。あんなもの、今まで見たことも無いよ……」
黙りこくるメリッサを見て、店員は心配そうに顔を覗きこんだ。
「大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
店員の言葉に声も無く頷き、エミニーを連れて家に戻ろうと後ろを振り向くと、そこには不安そうに事態を傍観する住民たちだけ。
「ねぇ、ここにいた女の子、どこに行ったか見ていた?」
質問されて店員は首を傾ける。
「そんな子見てないぞ。 君はずっと一人だったろ?」
その言葉に驚愕したメリッサは、わざとここに連れてこられたのだと理解した。ジョーイから遠ざけ、彼の魂を連れていいくつもりなのだ。
もと来た道を一瞬で駆けもどり、家の玄関にたどり着く。
ドアノブを回そうと、手を伸ばした瞬間に甲高い悲鳴が聞こえた。
急いで部屋に入るが、部屋の電気がみな消えていて薄暗く視界が悪い。それでも薄ぼんやりとした明かりを見つけて場所を確認する。
「地下室……。そこに二人がいるのね」
静まり返った部屋に、うめき声や悲鳴がバックミュージックのように鼓膜を揺れ動かす。
地下への扉の前でメリッサは目を瞑った。
「この世界はもう終わりだ。もうこの部屋以外に必要なものは何もない」
すると、目の前の扉以外が徐々にぼやけていき、最後には何もかもなくなってしまった。辺り一面、ぼんやりとしたモノクロの世界。その中で、メリッサと扉だけがはっきりと輪郭をあらわしている。
扉を開け中に入ると、そこはいつもの地下室とは全く違っていた。階段の先が見えないほど下へと続くそれは、まるで地獄へと繋がっているかのようだ。
一歩ずつ進む足がかすかに震える。これを踏み外したら、そのまま闇に引きずり込まれそうだ。
次で最後かな?






























もっと読みたいです・・・(涙)
長い文章を打つのは大変だったでしょうね、お疲れ様でした!^^