Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


【龍】‐4(「契約の龍」SIDE-C)

 不意に、後ろから手が伸びてきて、抱きしめられた。 
 驚いて振り向くと、会いたいと思っていた顔が、そこにあった。が。
「…全部、じゃないよね?ところどころ欠けてるけど」
 いくらここまでの障壁が頑丈でも、本人が来てて、こんなにぼろぼろになったりはしないだろう。…まず、胸から下がごっそり欠けてるし、形があるところも向こう側が透けて見える。
 比較的原型の残っている端正な顔が、耳元に唇を寄せてきて言葉を紡いだ。
「伝言。『課題終了。提出しに行くので、しばらく留守にする』以上」
 やっぱり。自分の「力」を使って作った、形代か何かのようだ。それにしては、伝言だけのためにわざわざ…と思ったら、続きがあった。
「追伸。『心労のあまり禿げになる前に戻ってくるように』」
 らしくもない軽口をたたくと、その姿が溶けるように消えた。代わりに、半透明な薄ぼんやりした影が立ち上がる。周りが青いので定かではないが、この色合いには見覚えがある、ような気がする。
「…ええと…『庭園』の人?」
 いくら面喰ってるからって、「『庭園』の人」って何だ?自分。『庭園』を構成してるのは「人」じゃないだろう。
 薄ぼんやりした影が、くしゃりと苦笑する。
「ええ、まあ、そのようなものです」
「……伝言のためだけに、あなたをよこしたの?」
 それも、ちょっと、らしくない気がする。
「いえ…最初は伝言だけを届けようとなさってたようなんですが、…うまくいかないようで。それで、わたしの方から申し出たんです。わたし自身の寿命は、そろそろ尽きそうだったので、お役にたてれば、と思って」
 寿命が、尽きる……そういえば、いかにも儚げな外見だ。
「それなのに、こんなおしゃべりしてて、辛くはないの?」
「外側は主自らの体の一部を使って作ってくださいましたので、わたし自身はここまでのところ、さほど消耗しておりません。…それに」
 影がすうっと、手(のように見えるもの)を差し出した。
「手をお出しください。お届け物です」
 怪訝に思いながらも、言われたとおりに手を差し出すと、淡い緑色の手が私に軽く触れ、……とたんに砕けた。細かな破片が私の手のひらの上に積もる。見た目よりも更に軽い破片は、覚えのある温みを宿している。破片は手のひらの上でさらに細かく砕け、内包していた「力」を送り込んでくる。
「私には過分なほどの力を分けていただきましたので」
 砕け続ける破片から声がする。
「最後にいい思いをさせていただきました、と言っていた、とお伝えくださいね」そう言い残して、消えた。
「……今の小さいのは、何ものじゃ?」上の方から声がする。「妙な気配を纏っておったが」
「…妙?」
「そなたから湧いて出たように見えたし、色々混じっておったな。…単一の存在であったのに。…なにものじゃ?」
「……さあ?…そういえば、あのこの本体が何か、というのは、は語りませんでしたね。感触からすると、ごく小さな樹霊とか、エアリアルとか…そんな感じでしたが」
 私としては、誰がここに送り込んできたか、の方が重要だったんだけど…気に掛けておくべきだったろうか?
「そんなか弱いものがここに至る事が出来たのは…そなたが気にかけておるものの助力か?」
「助力、というより、意向、ですね。…ちょっと傍を離れるけど、気にかけているから、って伝言を届けに。……そしてこれが、あのこにとって最後のご奉公だ、と」
「…じゃが、なぜ「伝言」なのじゃ?どうして自分で届けに来ない?」
「私が、来るな、と言いましたので。それはもう、口を酸っぱくして。…だいたい、ユーサーに連なるものでなければ、容易にはここには来られません。…わたくしとて本当は逃げ帰りたくて仕方がありません」
「そういえば、そなたほどしつこい女子(おなご)もおらんかったの」
 面白そうな声音で女が言う。
「男性で、ここに参った方はおりませんの?」
「女子で、というたであろう?そもそも妾と直に話そうと思う者は少ないらしくての。男(おのこ)の方は何やら妾と取引をしようと粘る輩は多かったが、大方の女子は、捕って食われるとでも思うのか、すぐに逃げ帰りよる」
 実際、捕って食ってるだろうが。こうしている間にだって、私からごっそり持って行っていないとも限らない。
 ふと思う。
 ……仮に、この状態で、私の体の方に危害が加えられて、……回復不可能な損傷を負ってしまったとしたら、この「私」はどうなるのだろう?…誰もそんな事は教えてくれなかったけれど。
 いや。少なくとも、祖母がいる間は、そんな事態にはならないだろう。最悪でも、命だけは繋いでいてくれるはずだ。

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