Nicotto Town


およよ・れおポン


あめゆじゅ

きょうの東京は一日雨が降っていたのだが、夕方からは、わずかに氷が混じっていた。
そして、日が暮れる頃には、みぞれと呼べそうなくらいになった。

たぶん、今シーズン最後の雪だろう。

桜のつぼみは大きくて、ちらほらと咲き始めたところへ、冷たいみぞれが降ってくる。

この冬は、雪の印象がある。
さほど大雪でもなく、とりたてて変わったことも無かったはずなのだが、なんとなく、不思議な感じがあった。

雪の日に雪が降ったという感じは無く、
雪が降らないはずの日に、なぜか降って来た、
という印象が残っている。

大雪ならば、雪だ、という印象が強いから、逆に、不思議でもなんでもないのだが、雨と思っていると、氷が混じっていたと言うようなできごとは、不思議になる。

そのせいか、この冬は「あめゆじゅ」という言葉を思い浮かべることが多かった。

僕が言うあめゆじゅは、本物のあめゆじゅではない。
僕は、雪の少ない愛知県で育ったし、今でも、愛知より多いとは言え、東京都に住んでいる。
みぞれがたくさん降るような経験は無い。

宮沢賢治が詩に残した「あめゆじゅ」が、夢の世界のものとして、僕の中にある。

もちろん、宮沢賢治は本物の大雪を体験しているし、みぞれも日常のものだ。

ただ、体験の無い者が宮沢賢治の詩を読んで感じる「あめゆじゅ」は、夢になってしまうのもしかたないだろう。

桜のつぼみに降るみぞれは、賢治の語るあめゆじゅとは違うものだけれど、

僕には、賢治のあめゆじゅのように感じるのだ。


   永訣の朝
         宮沢賢治

けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
うすあかくいっさう陰惨な雲から
みぞれはびちょびちょふってくる
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしをいっしゃうあかるくするために
こんなさっぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを
ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまってゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまっしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらっていかう
わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ
みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori Egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あああのとざされた病室の
くらいびゃうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまっしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
   (うまれでくるたて
    こんどはこたにわりやのごとばかりで
    くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

http://ascii.jp/elem/000/000/051/51983/
ここに直筆原稿の画像が載っています。

#日記広場:日記

アバター
2010/03/25 21:04
僕の中で育てて来た感性で、ひとつ、重要な考えがある。
科学は神秘に近づく知恵だ。

どうも言葉にすると意味が変わってしまうような感じがするが、とにかく、科学はこの世の秘密を解き明かす手段のひとつだ。

なにやら、宗教や、あるいは魔法、UFOのようなものについて、科学的に反論すると、それらを信じる人から「夢が無い」などと奇妙な言葉を突きつけられることがある。

でも、本当は、科学は神秘である。

宮沢賢治は、この詩の中でも「気圏」「二相系」といった表現をしている。

空は、地表と宇宙の間に漂う、気体の世界。

水と氷が、もともと同じ原子で作られながら、違う形で存在している。
どちらか一方ではなく、同時に別の姿を見せている。

その、極めて具体的な科学であり、深い神秘のなかで、
賢治が命について考えている。

僕が見つける、僕と賢治の共通点。

ふだんの僕は、「人と同じ」ということがきらいなのだが、
宮沢賢治が感じたことを、僕も感じられるのかもしれないと思うと、
うれしい。
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2010/03/25 18:58
この詩を知ったのは、高校生だったかな?
純粋な気持ちが蘇ってきた気がします。
なんだかしんみり。
しんみりしつつ、汚染されてなくて良かった・・とか思ってしまった(。→ˇܫˇ←。)
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2010/03/25 18:10
この詩は学校で習って印象に残ってます
アバター
2010/03/25 12:01
名前変えました!元ホワイトだょw




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