Nicotto Town



Be:8 yasei ni makaseru

「そこの広場だ」
言って、彼はスタスタとそちらに歩いていく。
 
僕が愛香に軽く手を振ると、愛香は再度僕を睨み、涙をこぼした。
取り巻きは早く行けよ、と促す。
 
 
 
踵を返して金髪の方に向かう。頭では様々なことが浮かぶ。
 
カモフラがばれない様なら最初は傘で戦おう。剣を抜いた時に不意をつける。
最初は腕や脚から狙っていこう。
相手はタバコを吸っているだろうか。吸っていたら長期戦は有利。
 
最後に、ここは余裕かつ残酷に勝たなければならない。
 
 
 
適当な距離を取ると彼が言った。
「そんな傘で俺に挑むのか?」
 
「これで充分」
 
「お前、知らないかも知れないけど、俺ここらで一番だぜ」
準備体操をしながら僕に告げる。
 
「知らねぇよ…」
徐々に身体が震える。怯えなのか、武者ぶるいなのか、見当はつかない。
叫びたくなる。叫んだら、いいか。
 
「早くしろぉ!!」
 
叫ぶと、彼は少し気圧されたようだった。
「…」
 
「焦んなって」
あくまでも彼はマイペースを装う。
 
そして叫ばれて苛立ったのか、先に攻めたのは彼だった。
 
そばに転がしていた鉄の棒を拾い上げるとそれを斜め上から振ってきた。
左手で受け止め、即座に傘で腹目がけ、突く。
 
「うっ…」
鉄の棒を素手で受け止めるのはかなり痛かった。
 
傘は彼の腹に命中したが、
反応を示さないので腹部には防具が入っていることが分かった。
彼のあいた方の手で傘が引っ張られる。
 
姿を現す刀身。
 
「こんなことだろうと思ったぜ」
傘が投げ捨てられ、僕と彼は再度間合いをとる。
 
「そんな剣、すぐにへし折ってやる」
 
「…」
心懸かりだったのがそれだ。細身の剣なので強度はないだろう。どうする…。
 
構わず攻めて来る彼。僕は諦めた。
 
叫びながら向かって来る彼とは対照的に僕は黙ってそこに立っていた。
鉄棒が振り上げられる。さきほどと身体の使い方がまったく同じ。
なるほど、ヤンキーとは、ただ力があれば誰でもなれるらしい。
考えるのはやめだ。野性に任せればいい。




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