Nicotto Town



他のサイトに乗せている作品 感動物! 前編

雨が降っていた。ずーーっと、降っていた。

「冷たいなぁ」

その雨は心を冷やす。私、雨乃(あめの)ユキは雨の中、一人立っていた。
場所は公園、誰もいない公園だった。ユキはそこで一人立っていた。
雨は彼女に当たり小さな音を奏でて飛び散っていく。

「冷たい……なぁッ!!」

ユキは最後の「なぁ」の部分だけ強くしながら雨の降っている空に向かって叫んだ。
彼女は一人だ、周りには誰も居ない。
暗くなった空の下、雨に一人当たっている。
その姿はとても孤独だった―――。



「今日は曲は何なのかなぁ~!」
「あ? そうだな、心に染み渡る様なのかな?」
「お~、楽しみだなぁ~、応援してるぞ! 少年!」

ユキはニコニコと笑いながら横にいる少年の背中を叩いている。
二人がいるのは公園だった。
そして、少年はギターを取り出し、音を奏でていく。

♪~~♪~~、♪~♪~~~♪~~、♪♪~。

ブランコに乗りながら音を奏でてる彼はとても格好良く見える。普段はやる気なさそうにしてる彼がここまで格好良く見えるのはなぜだろう?
ユキは気づいたら少年が作った曲に合わせて手を叩いていた。

♪~~♪~~、♪~♪~~~♪~~、♪♪~。

繰り返し同じ音がユキの耳に聞こえてくる。
少し時間が過ぎれば、それは終わってしまう。
だけど、ユキはこの時が一番楽しいと思っている。
だって、こんな心地いい曲なんて生で聞こえる事なんて中々ないからなぁ~。

「っと、終わり」
「上手い! 曲でも出せばいいじゃないのかなぁ~?」
「別に出す気はないな、自分の気分でやってる様なものだし……」
「もったいないなぁ~」

もう一度、彼の背中を叩きながらユキは微笑む。
次はどんな曲を聴かせてくれるのかなぁ~。
そう思いながら、彼を見るけど、彼は少し悲しく微笑んでいた。

「悪い、今日は用事があるから、これで終わり」
「ええぇ~! 今日まだ一回しか聞いてないのになぁ~!」
「後で最高の一曲聴かせてやるからさ?」
「わかった、その時は私に最高って言わせて見なさい!」
「了解しましたよ~」

満足!って言えないけど、今回は許す! そんな気持ちで彼が帰っていくのを眺めていた。
そして、ユキは自分の家に向かって歩き出した。
思い出すのは彼の曲、いつ聞いても好きになれる、今日もそうだった。
今日の曲は彼が言った様に心に染み渡る曲だった。

「何か歌詞とかつけないのかな?」

歌詞とか付ければもっと良くなるのに。
彼だったらできる、そう思えた。
彼の声はとても綺麗だし、顔は平凡っぽいけど、別に悪い訳じゃない。

「よし、私が付けよう! それしたらいいって言ってくれる! ……かもなぁ~~」

まずは作って見よう! 作るのは苦手だけど、たぶん平気だ!

「えーと、空から、声が聞こえる~。私の耳に響いてくる~」

なんかダサい、ううん、諦めない! まだ一言しか作ってない!

「夢からの使者が私を呼んで……呼んでどうするのかな?」

って自分で言った事に突っ込んでどうするのさ、私! やっぱり駄目だなぁ…。
ユミの顔は見ただけでも分かるくらいにテンションが下がっている、そのまま自分の家に入っていった。

「おかえり~……ってどうしたのさ姉貴」
「思いつかない、歌詞が思いつかないんだよ?」
「はぁ……? 何言ってんのさ?」

ユミはそのまま二階に上っていく、弟はそれを見ながら、気にするだけ無駄か、と思いながら自分の部屋に戻っていった。
それにしても、私って才能ないなぁ……。
なーんにも才能が無い私は本当に凡人だった。
運動は普通、勉強も普通、いつも中間辺りで、背だって丁度クラスでは中間くらいだった。
彼は逆に才能がある。
さっきの曲も頑張って作ったって事は分かるけど……やっぱり才能が無いと出来ない事だと思う。
羨ましいなんて気持ちは無い。
だけど、なってみたいなとは思った。

「ま、そんな事考えても意味ないなぁ」

考えた所で何かが変わる訳は無い。
ともかく、明日は楽しみだ、どんな曲を聞かせてくれるのかな?
学校は夏休みだから無いし、学校の宿題は……後でで良い。
中学二年生なんだから来年の為に勉強しろって母さんと言うけど、したところでたいして変わらないし。

「寝よ寝よ、明日がまちどうしぃ~」

ユキは瞳を瞑る。その瞬間、一瞬だけ、彼の引く曲が聞こえた気がした~。




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