Nicotto Town



中編

そして。次の日――。
同じ公園に行く途中で見たのは――。
救急車がサイレンの音を鳴り響かせながら真横を通り過ぎて行く所。
その時は気にしなかった。
だけど――。

「……どこかなぁ?……」

公園にあったのは、血で濡れてバラバラになっていたギターだった。

「あれ、今日は遅れてるのかなぁ……?」

ユキは公園のブランコの前に落ちている血で濡れてバラバラになったギターの前で、ペタンッと座り込んだ。
才能があった彼はもうここには居ない。それを悟ったユキの瞳から涙が零れ出る。

「今行くから曲聴かせてよ?」

血で濡れ壊れたギター……それを掴み、水道の前で血を洗いとる。
そして、自分の家にかけた――。
ビニールテープをつけてギターを直そうとした。
だけど、そんな事は出来るはずも無く。
なんとかつなげる事しか出来なかった。
だけど、これでいいんだ、そう思いながら二階から駆け下りた。

「姉貴?」

弟の真横を通り過ぎて、そのまま外に駆け出る。
靴なんてちゃんとはいてない。
今にも脱げそうだ。
だけど、ユキはそんな事は気にしない。
今、考えている事は彼にこのギターを渡せばで曲を弾いてくれるんじゃないかと言う事……。
だから、彼を探すんだ。

「近くの病院」

ここでは一つしかない病院に向かって行く。
そしてついたと同時に中に駆け込んだ。

「ついさっきここに運び込まれた人はどこにいるの!!」

確信なんて無い、だけどきっと彼はここにいるんだ。

「手術中です」

その言葉を聴いて、手術室の場所を聞いて駆け出した。

「ここ――」

私はその場所についたけど、そこは誰もいない。
だだ、手術中のランプが付いているだけ。
私は座り込んで待つ。
きっとまた曲を聞かせてくれる。

「最高の曲、聴かせてくれるんだよね?」

待ってるよ?
最高の曲を聴くまで満足しない。
私は平凡。
この時、考えられたのは彼の事だけ。
天才ならこの時に何をするだろうか。
このギターを作るだろうか?
最高の曲を変わりに作ってあげるのだろうか?
だけど、それを考えても無意味だ、私は何も出来ない。
ここで一人、待っている事しか出来ない。
やかで、手術中のランプが消えて。
医者達が出て行く。

「大丈夫なんですか……?」

一人の医者に尋ねるユキ。
だけど、医者は答えた。

「三日持つかどうか――」

その言葉を聞いたユキはすぐに駆け出した。
外は既に夜で、雨で降り始めていて。
公園についた頃には土砂降りになっていた。

「冷たいなぁ」

小さく呟く一言、それは雨の音で消されていく。

「冷たい……なぁッ!!」

どうしてなんだろう。
もうここに彼はいないのに。
今はきっと病院で寝ているはずだ。
そう考えていたユキはふと思い出した様に家に向かって駆け出した。

「待っててッ! 私が歌詞を作るから」

一度だけでいい、いつも考えていた事。
私には無理だからという理由で言い出せなかった事。
彼が音を奏でて、自分が声を出して歌う。

「すぐに作るから!!」

びしょびしょの服で家に駆け込んだユキはそのまま二階にあがろうとする。

「姉貴」

だけど、また弟が声を駆けてくる。
ユキはそれに反応する余裕は無い。
だけど、弟の声は聞こえた――。

「頑張れ――」

二階に駆け上がった私はそのままノートに言葉を書き始める。
時間はかかるかも知れない。
だけど、絶対に作って、聴かせる。
いつもは聴く側だった。
だけど、最後だけは聴かせる側になって見せる。



「出来た――ッ!!」

徹夜で歌詞を書き上げた。
ノートは何度も消した後でぼろぼろになってしまっている。
だけど構わない。
私は駆け出した。
まだ一日、生きている。
だから、病院へ、向かって走る。
病院の中は静まり返っている。
その中を一人駆け込んでいく。
彼の病室を見つける。
音野(おとの)ユウキ。
私はそこに飛び込んだ。
彼はベッドで寝ていた。

「さぁ、来たよ。最高の曲を聴かしてあげる!」

本当は彼が聴かせてくれるはずだった。
だけど、構わない。
今回だけは私が聴かせて見せる。

「貴方が――、いつも――」

小さく、悲しく心を込めて。

「奏でる――曲は――」

少しだけ愉快に、だけど大きくはせずに。

「私の心を――撫でてくれた――」

感情を抑えて、まだまだ抑えて。

「だけど――、貴方は遠くにへ――」

さぁ、聴いててここからが始まりだから

「行ってしまったから―――」

大声でだけど緩やかに……。

「変わってしまった、私の毎日――、貴方がそこで曲を奏でる事が――私の日常だったのに―――――。既に貴方は居ない―-、どこにもいない――嘘吐き嘘吐き大嫌い――」

感情が洩れ始める。止められない。

「大嫌い大嫌い――。貴方の曲が大好きだった。貴方が大好きだった――」

全てを貴方に伝える――。

「戻って来てよ――。大好きだから――!!!」

短い曲、だけど私が精一杯作った曲、彼はそれを寝たまま聴いていた。
目覚めるはずは無い。
だけど、私はそこで彼に向かって微笑んだ。
そして、ビニールテープで直したギターをたけかけた私は病室から駆け出した。

アバター
2010/04/01 12:54
ありがとうーw 感動系は私が大好きなのだw
アバター
2010/04/01 12:52
凄いw



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