「なつかしい」
- カテゴリ:自作小説
- 2010/04/11 22:02:45
例え十五年しか生きていなくとも、「なつかしい」という感受性は私にだってある。 そうしてそれは、短い間しか生きていないせいか一ヶ月もご無沙汰すればなんだって懐かしいのだ。 そう、今日のように。
『なつかしい』
真新しい制服に身を包み、泥一つない革靴で傷一つない自転車をゆっくりと漕ぐ。 こうすれば、両隣を流れる花壇に植えこまれた桜やパンジー、チューリップなどの春の花々が楽しめて、気分がほんの少し明るくなる。 中学生と高校生の狭間の期間を終えて一週間。 ようやく新品の教科書を使った授業が始まり、少し古びた校舎の造りに慣れた日の帰り道。
私は、なつかしい人物に会った。
「優作!」
私が二輪車をマイペースに走らせる自転車道と、車道がちょうどぶつかる私の目の前を横切る男子学生。 まだまだ「夕暮れ」と呼ぶには早い時間帯だったので、原始人並に視力がすぐれた私はその姿を見間違えることなんてなかった。
「長野」
元・同級生が私に気付くのと同時に、ブレーキを踏む。 少々よろめきながらも地面に片足をつき、振り向いた優作と向かい合った。
「久しぶり」
「おう」
どうやら向こうも私を覚えていたらしく、当たり障りのない挨拶に返事をくれた。 「当たり障りのない」といっても、実質会っていないのは春休みと高校生活を送った約三週間なので、「久しぶり」がふさわしいのかなんて分からないけれども(それでも腐れ縁との再会に自分は素直に「なつかしい」と感じた)
「高校生活、どう?」
そう聞いたところで、ここからさほど遠くない男子校に通う優作をまじまじと見つめてみた(失礼だ、なんてこれっぽちも思わない)
もともと短かった髪は更に短くなっていたが、別段おかしくはない。 寧ろ似合っていて、なんというか爽やかさ三割増し。 黒い学ランに見慣れていた私にとって、彼のブレザー姿は何とも新鮮だ。 少しゆるめられたネクタイもだらしなさは感じられず、はっきり言おう、かっこいい。
「そうそう、野球部の顧問が太っているくせに走り込みがすごくてさー。笑っちまうんよ」
自分で質問しておいて、答えなんて聞いちゃいない一人品評会を続けていた私に、引っかかる単語が耳に入った。
「なにあんた、野球部に入ってんの?」
「おうよ、長野は?」
「私は知っての通りバレー一筋よ。今日は部活が無いから早帰りなの」
なんて答えつつ、そっかー優作、野球始めたんだー、中学時代はサッカー一本だったくせになー。 と頭の片隅で白と黒のボールを上手に扱う優作の姿をフラッシュバックさせる。 なんだか友人が知らないうちに自分の知らない人に変わってしまい、置いてけぼりをくらったようで少しだけ寂しく、不安になった。
けれど、ふぅん、なんて興味があるんだか無いんだか分からない昔っからの馴染みあるコメントに安心した……のは何故だろう。
「ヨシ、とにかく頑張れよ。じゃあな」
一方的に告げられた会話終了の合図に反論は出来なかった。 だって、そんな笑顔、ずるい。 なつかしくて、また話せて嬉しくてしょうがなかった、というように目を細めて、白い歯をのぞかせるなんて。
そして何よりまだ話していたい、と脳みそが一瞬でも思った自分が信じられず、戸惑いは反応を遅らせた。
「何なんだ一体……」
本当に、何なんだ。 今度はちゃんと置いてけぼりをくらいながら呟く。 体が先程の優作の笑顔を繰り返し思い出させるので、不思議でしょうがない。
一人取り残された私は、友人に再会できた嬉しさとなつかしさと、謎の感情を体内に巡らせ、ペダルをゆっくりと漕ぎだした。
***
文芸部員としての活動での初めての作品。
恋する少女の気持ちは難しい。
いません。いたら気持ち悪いです。
ちなみに続きはありません。
何故なら私の作る小説は落ちというものが無いから。
そして、優作。松田優作思い出してワロタww
続きはあるんすか?