「薔薇の下に」
- カテゴリ:自作小説
- 2010/04/13 14:51:01
桜の下には死体が埋まっているそうですね。
では、薔薇の下には、何が埋まっているのでしょうか――
【林檎園の少年】
真新しく、土を掘り返した跡があった。
周囲を均す、という偽装工作さえしていないのは、子どもの仕業、と思われた。
庭師がひとつ溜め息をついてそこを掘り返すと、案の定、そこからはソテーされたニンジンが出てきた。
「坊ちゃま。私の庭に変な物は植えないでいただけませんか」
朝食を終え、午前の授業が始まる前の散歩、と称して少年が中庭を歩いていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「…へ、へんなものって?」
恐る恐る振り向いた少年の目の前に、手のひらが突き出された。その上には綺麗に洗ったニンジンが三つ載せられている。
「……ぼくがやったというしょうこはあるのか」
「ここに、片方欠けた前歯の痕が」
ニンジンの一つを手にとって、仔細を点検するように顔に近付ける。
「お屋敷の方で前歯が欠けてらっしゃるのは坊ちゃまおひとりです」
少年が口許を押さえて反論を試みる。だが。
「かっ…かじってなんかないぞ、ニンジンなんかっ!だから、はがたなんて…」
語るに落ちた。
庭師が溜め息をついて膝を落とし、視線を少年の高さに合わせる。
「いいですか?薔薇は繊細な植物なんです。妙な物をその根元に植えて、病気になんかしたら、どうなるとお思いですか?」
「……どうなるの?」
「最悪の場合、この薔薇全部抜いて焼却処分です」
庭師が周囲をぐるっと指さす。少年の向かっていた方向には、本格的な薔薇園があるのだが、それ以外にも中庭のそこここには薔薇が多く植えられているのだ。
「そうしたら、奥様がさぞかし悲しまれるでしょうねえ」
奥様、というのは少年の母親の事で、これくらいの少年にはありがちな事だが、彼もまた母親の事をこの世で一番敬愛していた。
したがって、自分の下軽はずみな行動のせいで、母親が悲しむ事になるかもしれない、と聞いて、少年は暗い顔になった。
「…いえ、薔薇だけで済めばよろしいのですが、果樹の方にまで広がってしまったら…ご主人さまもさぞかしお困りになるかと…」
ご主人様、と言うのは、当然少年の父親の事で、運の悪い事に昨年は春先の低温で花芽がやられ、特産品の林檎酒が大打撃を受けている。幸いな事に、主産品の麦は豊作だったので、経済的な痛手は免れたが。
だから、果樹にまで被害が及ぶかもしれない、と聞いて少年はひどくしょげた。
「………わかった。ごめん。あやまる」
「他の所に埋めるのも、だめですからね」
「わかったってば」
「では、このニンジンは私の方で処分しておきます。今後も、ニンジンに限らず、食べ残しを庭に埋めたりなさらないでください。お解りになりましたね?」
「……わかった」
外国ではバラの下に死体が埋まっているとよく聞きますが・・・←ワタクシだけ?
桜はもともとバラ科の植物なのでそう言われているのかなぁとおもったりww