冬の朝顔 2 緑と正人 ①
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/05 06:16:14
「オギャア,オギャアアー、アアア!」
真夜中の泣き声に、緑はあわてて起きだした。
娘の美里が夜泣きを始めたのだ。
正人が起きださないうちに、泣くのを止めさせないと。
夜中に起こされると、夫の正人はもの凄く機嫌がわるくなる。
今年の冬は暖冬だ。
12月だというのに、春のような暖かい日が続いている。
それでも真夜中はぐっと冷え込むので、緑はぶるっと震えた。
美里が生まれてから、正人とは別々の寝室で眠るようになった。
まだ赤ん坊の美里と同室で寝るのを、彼が嫌がったからだ。
それから緑の体にも触れてこなくなった。
なんだか、正人の存在が遠く感じられて、時々哀しくなる。
育児に追われて忙しく働いている昼間は、ほとんど感じることはないけれど、
こんな風に真夜中に起きると、緑はたまらなくなることがあった。
(さみしい)
それが正直な感情だ。
でも、今は自分の娘の方が優先だ。
「とにかく、美里やわ」
ベービーベッドに眠る娘は、顔を大きくしかめて力いっぱい泣いていた。
7月に生まれてちょうど6ヶ月、夜泣きがひどくなってきたようだ。
「どうしたん?お腹すいたん?それともオムツ?」
抱き上げてあやしながら、すばやくオムツを確かめたけど濡れている様子はない。
お腹が空いたのかと作りおきのミルクを飲ませてみたけれど、それも飲もうとはしなかった。
「どうしたの?怖い夢でもみたん?」
抱き上げてあやしているうちに、美里はやっと泣き止んでうつらうつらし始めた。
どうやら正人は目を覚まさなかったようだ。
緑はほっとして、自分の寝床に座り込んだ。
娘を布団にそっと寝かせて、自分の毛布で包んでやると、安心したようにぐっすり眠りだした。
美里は正人によく似ている。そう思うと、愛おしさがよけいに募る。
(私の不安を感じて泣き出したんかな・・・)
ベビーベッドに戻すことなく、美里の寝顔を見つめて、緑は物思いにふけった。
どうしてこんなに正人に気を使って、暮らすはめになったのだろう。
*
竹田緑が東正人と知り会ったのは、3年前、勤務していた病院でだ。
正人は病院に出入りしていた製薬会社の営業マンだった。
幾度か病棟で顔を会わすうちに、デートに誘ってきたのは彼の方だ。
最初は仕事が忙しいからと断っていた。
看護士になって3年目、小さい頃からの夢だった職業について仕事が面白くてたまらなかった。
男性と付き合う気は全くといってなかった。
恋愛より今は仕事、それが緑の心境だ。
忙しくてなかなか休みが取れないのも、それに拍車をかけていた。
だが正人は諦めなかった。
断れば断るほど、幾度もにデートに誘ってきた。
緑にとって彼は、けっして嫌いな人ではない。
初めて会ったときから好感を持っていた。
正人は仕事熱心だし、誠実で、病院のスタッフからも信頼されている。
特別ハンサムでもないし、ファッショナブルでもない。
でも真面目で信頼できる人柄だ。そばにいて安心できる人だ。
緑だって女性だから、好感を持っている男性からデートに誘われたら悪い気はしなかった。
どうしたものかなと親友の三坂佐奈に電話をした時、この事を相談してみると、
「付きおうてみたら?」
と、軽く背中を押してくれた。
佐奈は自分が平凡なOLだからと引っ込み思案ぎみだが、こういう時は必ずいい答えをだしてくれる。
昔からそうだった。
佐奈と緑と、もう1人、松村珠生の3人は、幼稚園からの幼馴染で親友同士。
行動的な緑と珠生についてくる佐奈だが、どういうわけか肝心な事を決めるのはいつも佐奈だった。
珠生が漫画家を目指して上京するかどうか悩んでいた時、
「冬の朝顔になりたいんと違うの?」
といって決意させたのも彼女だ。
緑は佐奈の言葉に従って、正人の誘いを受け入れた。
OKの返事を貰った時の正人の笑顔は、それは印象深いものだった。
本当に嬉しそうに、瞳を少年のように輝かせていったのだ。
「竹田さん、ありがとう」
緑の恋は、この笑顔を見たときから始まった。
また、この人と結婚するだろうと確信したのもこの時だった。
赤い糸とか、前世からの運命とか、そんなご大層なものではなく、
ただこの人と結婚するだろう、そう確信が持てたのだ。
三坂佐奈や、松村珠生と初めて出会った時もこんな確信があった。
この2人とは、きっといつまでも友達だろうという確信。
幼い幼児でも、確信は持つのだ。緑はそう信じている。
直感にも似たこの確信を、緑は信じた。
はたから見たら分からない苦労って、人それぞれで悩みのな人生はないよね。
正人の答えは続きの話に書いています。
後者の予想がビンゴかな?
正人は釣った魚にエサをやらない男なのかな~?
それとも二人の関係性の変化には別の理由があるのかな??
新しいPC(たぶん中古ですが)がきたら、また順次アップしますw
お待ち下さい。
短編ではなさそうです^^