冬の朝顔 2 緑と正人 ②
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/08 14:53:34
正人と緑の最初のデートは、堂島川と土佐川を分ける中州にある中之島公園だった。
季節は6月で、この公園にある薔薇園の薔薇が満開になっていた。
中之島公園は大阪随一のビジネス街にある公園だが、樹木が多くて川の中州にあり、大都市の中心部とは思えない都会のオアシス的な静かな公園だ。
20世紀初頭に建てられた中之島図書館や中央公会堂など、大阪の代表的な洋風建築が見られる場所でもある。
この公園は、彼女の思い出の場所でもあった。
中学時代、佐奈や珠生と3人でよく中之島図書館で勉強した。
薔薇の咲く時期は、薔薇の香りとその綺麗な姿を3人で楽しんだものだ。
USJでもなく、天保山でもなく、難波や梅田の繁華街でもない正人のチョイスに、
緑は彼らしい選択だと微笑ましく思った。
「東君、聞いてもいい?」
「ええけど、何かな?」
「何でここにしたん、初デートの場所?」
「何でっていわれてもなあ・・・」
正人は明後日の方向に視線を泳がせ、少し早口で答えた。
「なんとなく、竹田さんに似合うとこやと思って」
その答えに、緑は嬉しそうに微笑んだ。
初めてのデートだからといって、正人は何をするわけでもない。
ただ、初夏のまぶしい日差しの中、咲き誇る薔薇園をゆっくりと2人で歩く。
何気ない会話を交わしながら、公園を散歩する親子連れを眺める。
薔薇の花をスケッチする人の絵を眺める。
大きく育った樹木の繁茂する散歩道をゆっくりと巡る。
そんな何気ないことが、本人も気がつかずにいた仕事に疲れた緑の心を、優しく癒していた。
わずか半日にも満たない初めてのデートは、緑の心に印象的に残った。
それからも、2人のデートはこんなふうに自然豊かな土地を巡るものがほとんどだった。
春夏秋冬、季節を追うごとに、2人の結びつきは深くなった。
初めて佐奈に彼を紹介した時、「あの人やったら、大丈夫やわ」
と、笑顔で祝福してくれた。
自分から音信を絶っている松村珠生に、自分の幸せを知らせることができないのが、
緑のただ一つの気がかりだった。
恋人同士になって3年目、2人は結婚した。
ごく親しい友人だけを招待した、会費制の質素な式だった。
正人の両親はすでにこの世にはおらず、緑も母親しかいない。
派手な結婚式を挙げる理由も、挙げる意味もないと二人で決めたのだ。
どんな豪華な式でも、心がこもったものでないとどこか虚しさが付きまとう。
けれど、質素な式でも、心から祝福されたものは素晴らしい結婚式になる。
親しい友人だけに囲まれた結婚式は、2人にとって思い出深いものとなった。
特に歓んでくれたのは、やはり佐奈だった。
「ほんまに、珠生も強情やねんから!住んでるとこぐらい、教えてもいいのに!」
もう1人の親友、珠生の不在を怒っていたのも佐奈だ。
「あの子の分まで、佐奈が歓んでくれてるやん、それでええのんよ」
緑はにっこり微笑んで、佐奈にブーケを渡した。
「次は佐奈の番。早くいい人みつけてね」
「そうやね」
くったくのない笑顔でブーケを受け取った佐奈が、もう重度の子宮筋腫を煩っていて、
オペでとり除くしかない状態だと知った時、緑はこのことをひどく悔やんだものだ。
佐奈は気にせんでいいよと笑っていたが、傷つかないはずがなかった。
緑は、無意識下で佐奈に少しだけ遠慮するようになった。
竹田の戸籍に婿養子の形で入籍した正人は、東から竹田と名字が変わった。
会社の同僚からそのことでからかわれていたようだが、本人は全く気にすることはなかった。
緑は夜勤や準夜勤で不規則な生活だ。
正人も営業マンとして、仕事に追われがちだった。、
すれ違いながらもこまめに連絡を取り合い、時間があえば恋人時代のように、
京都や奈良の自然豊かな土地を訪れた。
2人の忙しくても穏やかな生活が狂いだしたのは、緑の妊娠がきっかけだった。
リアルでも友人から子育てや夫婦間の相談を受けますが、いかんせん私は経験不足。
お話を聞くことしかできません、
それだけでもいいと言われはしますが…。
悲しいなぁ~ くすん ( ノω-、)
正人の過去・・・ なんだろう・・・
理想のデート、そうかもしれないなあW。
正人と緑のすれ違いは、一応、正人の過去に問題があるんですが。
些細なことで心がすれ違ってしまうのは、なんともやりきれない。
でも、それを乗り越えるカップルもいるしね。
真実は一つだけじゃあないからなあ…難しいね。
ラトさんの理想でしょw?
正人と緑も公園のベンチで昼寝して
ハトとお見合いしてゆったりしてれば
すれ違いも起きなかったのかな...。
「あんなに好きだったのに」という気持ちが
取るに足らない小さなことで崩れていく人間の弱さは
有史以来変わらない悲しいサガなのかな.............