Nicotto Town



お待たせしました、№10です^^;


  やって来て欲しくなかった日。

                    やってくるとは思っていた。

          それでも来て欲しくはなかった、

 突然の出来事。

 
          ~内心八雲~
              №要の無理。

 もう7月下旬。
 コンクール間近という事もあって、練習が無い日にも練習させてもらい、
 喜多河高校、つまり昴の前の学校とは全く違う雰囲気が漂っていた。

 「もうちょっとだね~…どうだろ」
 「うん…あと2週間かぁ~…でも県大会行きたいよね」
 「うん」

 昴は合奏後の要を見ていて心配だった。
 今にも倒れてしまいそうなのだ。
 毎日合奏をしているからなのか、
 コンクールが近くなって来ているからなのか。
 なぜだか分からないが、眼の下にくまが出来てきている。
 成積優秀、スポーツ万能。お母さんが栄養士と言う事もあって、
 生活面もとても気を配っているあの先輩に、だ。

 「じゃあ後10分で合奏始めるから用意しとけよ」
 「「はい!!」」

 昴は要に気をかけながら、今日の合奏は30分で終わらせると心に決めた。
 合奏が始まり、コンタクトをしている要は本当に別人に見える。
 
 (あっ!あと5分だ…)

 「先輩!あと5分です!」
 「え?あ~10分延ばせねェの?」
 「今日は無理です!!ほら、あと3分ですよ!最後とおしてやったらどうですか?」
 「え!あ、おう!!」

 今日はなんとか終わらせる事が出来た。
 しかし明日となると、絶対2時間ぶっ通しで合奏…なんてのもあり得る。
 今日にでも要と話をしようと思った。
 
 「先輩タオルです。」
 「おー、さんきゅな」

 要はいつもそう言って昴の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
 昴はそれがたまらなく好きだった。

 「先輩、あの・・・」
 「あ?なんだよ」
 「明日って合奏何分くらい…」 
 「ん――…明日土曜だし、休憩入れながらなら4時間くらい出来んじゃね?」
 「は!!?絶対そんなスケジュール組みません!!」
 「あのな…あと2週間しかねェンだぞ!!?そんな事言ってる場合じゃねェよ!!」
 「あたしは!!…先輩の…!!眼が…見えなくなりそうで……怖いん…です!!」
 「え…」

 泣いているような声を出している昴の声を聞いて、
 要はタオルを眼からどけて昴を見た。
 すると昴はボロボロと泣いていた。

 「先輩は!!なんでも一人で抱え込んで…ずるいです!!部活の事なのに!!」
 「俺は他の奴に負担が掛かっちゃ合奏が上手くいかないから嫌なんだ」
 「そんなッ!!だからって先輩が抱え込んでたら!!先輩は指揮者なんです!!
 部活の事を思ってなのかもしれないですけど…
 あたしは前のように指揮振って欲しいんです!!」
 「…はぁ」

 昴の必死な声に要は圧倒され、ため息をついた。

 「今日はもう帰る。疲れた」
 「…はい」

 要はそう伝えると、スクールバックを手にとって部室から出て行った。
 (ったく。そんなに必死に言われるとよ…勘違いしちまうよ)
 要はうつむきながら向日葵畑『日向』に向かった。
 そのあと昴は、嵐に要が気分が悪いから早退したと伝えて、
 昴もしんどいので早退させてもらうと伝えた。

 (今日は向日葵畑にsax吹きにいこ)

 昴はそう思いながら家に帰宅した。
 制服からワンピースに着替えると、
 saxケースを肩にかけて自転車をこぎ始めた。
 「あっつ~…あ!!見えてきた~!!」
 昴は向日葵の黄色が一面に広がったのを確認すると、一気に坂を下った。
 「着いた~…」
 saxをケースから出し、向日葵畑の近くまで行って息を思いっきり吸った。
 ≪♫~♪~≫
 要はその頃類のカフェに居た。
 突然saxの音が聞こえてきて窓を開けると、綺麗なワンピースを着た少女が
 tenor saxを吹いていた。

 「この曲って…」
 「すごい綺麗な音ね?誰が吹いてるの?」
 「昴だな、この音は。」
 「昴ちゃん上手いのねぇ…この音に心が揺れたの?要くんは」
 「えっ…てか何がですか!!」

 類に言われた事に要はカフェオレを吹き出しそうになった。

 「え~?だって要くんが誰か連れて来たのが初めてだったからぁ~」
 「あぁ…そーでしたね」

 そんな事を言っている時も昴の音は向日葵畑に響いていた。

 「月光かぁ…久しぶりに聞いた」
 「とても綺麗な曲ね~…要くんの音も綺麗だったのに…」
 「そんな昔の話しないでくださいよ」

 この曲は、新や星、茜が居る高校の自由曲だった。
 その曲で堂々とソロをやり、審査員がびっくりしていたのだ。
 感情がこもっていて、それをストレートに伝えようとしている…と。

 「こんなの吹かれたら、みんな揺れちゃいますよ」
 「そうだね~…要くんが此処に来てるの分かってるみたいね、まるで」
 「そんな事ないですよ」
 (あいつの心は双子一色です)
 要はその曲を聴きながら、ゆっくり眼を閉じた。




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