春への幻想
- カテゴリ:自作小説
- 2009/02/13 08:07:52
1、川に来た理由
何となく生暖かい風が吹いていた。
この川の土手には、レンゲが一面に生えていて、今にも咲き出しそうにつぼみを膨らませていた。
時間はもうすぐ24時になろうとしている。
月も出てない真っ暗なはずの夜だが、何となく薄明るい気がする夜。
全てを失ってしまったと、そう思い込んでいた私はとうとう、ここに足を運んでしまった。
「このままこの川に入ってしまおう」
水鳥が一羽、川上に向かって鳴きながら飛んでいったのが見えた。
私はウェブコンサルタントの会社に所属していた。
企業のウェブサイトのデザインを考案し、より効率的な広告効果や経営戦略を企画すると言った仕事がメインだった。
私の会社での功績は高いものだった。
私の考案した企画はほぼ100%の確立で上手く行き、クライアントからの信頼は元より社内での評価もかなりのものだった。
私の企画は全て私の頭の中に入っていた。
他の社員は、企画する業種によってマニュアルを作り、それをデータベース化して保存していた。
私は各クライアント毎に全てオリジナルの企画を考案し、同業種でも差別化を図った。
担当した全てのクライアントの細かい要望なども、全て私の頭に入っていた。
それは、同僚社員にも決して漏らす事はなかった。
私が誠心誠意クライアントと付き合った結果が、そういったデータとして残っていると言う事が私には嬉しかったし、例え同僚や上司にだってそれを提供する気にはなれなかった。
ある日の夕方。
帰宅を急ぐ私のクルマの前に、一人の子供が飛び出した。
必死にステアリングを切り子供を助ける事はできたが、私のクルマは近くを走る首都高速道路の渋滞情報などを知らせるインフォメーションの電光掲示板を倒すほどの事故を起こす事になった。
大破した車の中で、私は真っ赤になった自分の身体で辺りを見回した。
私が命を救ったはずの子供の姿は見えなかった。
私はそのまま、救急車で運ばれた。
私の顔には大きな傷が残った。
そして手元には、損害賠償額が提示された請求書があった。
私が倒した電光掲示板は8000万円だった。
その額は、私が加入していた自動車保険の対物補償額である1000万円を大きく上回っていた。
私は会社に向かい、退職金や賞与の前借と、足りない分の借金を申し入れた。
しかし、会社はそれらを受け入れる代償に、私の頭に入っているクライアントの情報とウェブデザインやその他の戦略プランの提示を求めてきた。
仕方なく、私は会社に従った。
しかしその直後、会社は私に子会社への左遷の辞令を突きつけたのだ。
それまで付き合っていた女性は、その後私の元を離れた。
私は見ず知らずの子供を助ける為に、仕事も車も恋人も全てを失ってしまった。
時は春。
ピンと張り詰めたような空気が、やがて暖かい風に変わってくる季節。
今にも咲き出しそうなレンゲのつぼみ。
緩やかに流れる水面を、少しだけ暖かくなった川風が走り抜けてゆく。
全てを失ってしまった私は、この川の河川敷へやってきた。
つづく
はい、フィクションであり、登場する個人名・団体等は実在の物とは一切関係ありません。
この痛々しい主人公を、誰かが救う事になります。
誰がどの様に救うのか、お楽しみください。。。
続き、よろしかったらお付き合いくださいませ。
3回で一応終了です。
その後、続編があるとかないとか・・・。
コレ、懐かしいでしょう?
こちらでも載せちゃいます。
良かったら読み返してくださいね。。。
まぁ、シロートですからこの程度ですよ。
お恥ずかしい。。。
痛々しい感情が流れ込んできます。
お金なんかには代えられない 本当に・・・
つづき 読ませて頂きますね。
それにしても 何て美しい文章かなぁ~ 素晴らしいです。
絵のように動画のように 動いてる*・。.♦♫♦♫.。・*゜*・