Nicotto Town


ひまわり畑を眺める一匹猫


春への幻想

3、幻想

女性は私に声をかけてきた。

「こんばんは。」

私は驚いた表情を取り繕いながら、挨拶を交わすことになった。

「こんばんは。」

その女性は、笑顔で私に話しかけてくれた。

「何をされているの?。」

当然、死のうと思って来たとは言えるはずもなかった。

「ちょっと夜風に当たりに・・・あなたは?。」

「私もです。今夜は暖かくて気持ちがいいわ。」

「こんな時間にお一人で・・・怖くはないですか?。」

「ええ、私この近所ですから。」

私たちは、少し歩きながら話す事にした。





他愛のない会話の中で、私はこの人にもう少し話してみたくなった。

「私は全てを失ってしまったんです・・・。」

「そんな事はないわ、あなたはまだ生きていらっしゃる。」

「いえ、そうなんです。仕事も、信じていた恋人すら・・・。」

「あなたは強い人よ、私にはわかります。」

「今逢ったばかりのあなたに、何がわかると?。」

「わかります、あなたの全てが。」

その人の目は、私の全てを見透かしてしまっているようだった。

美しい人だった。





私たちは水辺を歩いていた。

ふいにその人はこんな事を言い出した。

「奇跡を信じる事はできますか?。」

「奇跡なんて・・・例えばどのような奇跡ですか?。」

「一瞬であなたを幸せな気持ちにする奇跡です。」

「そんな事は・・・ありえない。」

その人は優しく笑いながら、私を見ていた。

「幸せって、意外に近くにあるものじゃないかしら。」

その人がそう言うと、急に足元が明るくなったような気がした。

私は目を疑った。

さっきまでつぼみだったレンゲが、一斉に開花しだしたのだ。

まるで、薄紫色のじゅうたんの上にいるようだった。

「あなたならできるわ、だってあなたは強くて優しい人。」

私は一面に咲き誇るレンゲを目の当たりにしながら訊いた。

「君は・・・誰なんだ?」

「私は、この川の一部になった者。」

「まさか・・・」

振り返るとあの人は消えていた。



「ミント・・・」





やがて不思議な夜は白々と明けてきた。

あの人が言った言葉を、私は頭の中で何度も繰り返していた。

「幸せって、意外に近くにあるもの・・・」

これ以上失うものがなくなった以上、幸せなんてどこにでもあるのではないか?。

私は初めて味わった挫折を、乗り越える事が出来るような気がした。

そして私は、生きる事を選んだ。


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2009/02/17 07:26
廉さん
そっか、そうでしたね。
彼・・・人間の彼氏とお別れしたお話かと・・・。
そう、自分で書いた話の内容を見れば、解りますよねぇ。
淋しい想いをさせてしまいましたね。
ごめんなさい。。。
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2009/02/17 01:46
はい、いい思い出です。
でも思い出というにはまだ私には早すぎます。
この前亡くなった茶色いヤンチャなやつなんで(^^;

今も、これ読んでまた泣いてしまいました。
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2009/02/16 23:26
KINACOさん
あぁ、青い鳥・・・読んでないわ。
そそ、意外と探していたものは身近にあったりするもんですね。
靴下を左右ひとつの足に履いて、もう片方を探していた野球選手がいましたね。
自分を客観視できる人間ならば、そんな事はないでしょうけど・・・
そういう人は一人しか知りません。
彼の名は・・・デューク東郷。
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2009/02/16 23:21
廉さん
それはいい思い出?
それとも暗い過去?
どちらにしても、廉さんにとって忘れられない思い出なんですね。。。
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2009/02/16 23:20
くぅみんさん
そうなれば一番いいですね。
希望を持てば、きっとなるって信じましょう。。。
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2009/02/16 13:35
メールリンクの青い鳥もそうだったよね。
探し物は「灯台もと暗し」だし。
眼鏡を探していたら、頭に掛けてたし。
そんなもんかもね。
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2009/02/16 02:20
この前別れたばかりの彼を、思い出してしまいました。
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2009/02/15 19:07
きっと そうなるのですね・・・・



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