北の少年 砂海編 42-1
- カテゴリ:自作小説
- 2010/07/11 19:09:49
このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。
長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;
「ロウ・バルト、俺ヲ育てタ。大きくなっテいろいろ仕事しタ。仕事おわるト、森を見せてくれタ。故郷の森ダ」
軋む声で話す人狼の様子は、淡々としていた。
ただ、自分が知っている真実を話す人間と同じように。
頭も心も真っ白な状態でその話を聞くジェンには、人狼のたどたどしい話し方でも静かに降る雨のように心に染み入ってきた。
育ての親、ロウ・バルトの命じた仕事は、ほとんどが口にはできないような、気持ちの良いものではなかった。
人の命を殺めること、人に罠をかける為の下準備、必要な物を手に入れるための窃盗。
その代償として、ロウ・バルトが人狼に与えた物は「故郷の森の映像を視せること」だった。
「森、懐かしイ。森、知らなイ。でモ、還りたイと思っタ」
初めて、人狼の口調に感情が宿ったようだ。
哀しいまでの郷愁。憧憬。そして、半分諦めのような感情。
様々な感情の揺らぎが、森と言う言葉から感じられた。
ジェンの脳裏にも、カイルが視たような黒々とした何処までも広がる針葉樹の森が広がっていく。
雪のちらつく北の大地の、まだ視た事が無い冬の森が、人狼を呼んでいるのだった。
「ロウ・ヴェインヲ見つけル。捕まえル。短剣奪ウ。ロウ・バルト二知らせル」
ジェンの脳裏から、森の映像が唐突に消え失せた。
人狼の口調からも感情が消え、また淡々とした話し方に戻っていた。
「これガ俺ノ仕事。邪魔な物、取り除ク。それモ仕事。おんナ」
人狼は視線をジェンに合わせて、鋭い目で見つめてきた。
「今、お前かラ、ロウ・ヴェインの臭イすル。そば二いるのカ」
「そうだ」
ジェンはあっさりと答えた。
彼女の言葉には、何の気負いもない。
「昨日ハ知らないト言っタ。今、知ってル。何故答えル?」
人狼の口調に、再び感情が戻ってきた。
今度は戸惑いと混乱、そして疑惑のようだった。
「昨日は知らなかった。今日は知っている。」
ジェンも事実だけを語る淡々とした口調で、人狼の問いに簡潔に答えた。
これ以上はないほどの簡潔さに、人狼は面食らったようだ。
「おんナ。お前へんダ。メタモルフへんダ。どっちモばかなのカ?」
「おまえなあ」
ジェンは人狼の言葉を聞いて、思わず笑みを浮かべた。
「その育ての親のロウ・バルトは、お前に優しかったのか?」
「…やさしイ…そレなんダ?」
「…いや、いい。話を続けてくれ」
ジェンは湧き上がりかけた憐憫と怒りを押さえ込み、もう一度頭の中を真っ白に戻した。
今は話を聞く時で、感情の爆発は後でいくらでもできる。
「仕事、終ル。ロウ・バルト二知らせル。俺、森二還ル。話これだけダ」
人狼はふっと、肩の力を抜いた。
「俺、負けタ。おんナ、おまエに負けタ。もう、森に帰れなイ。後ハ、死ヌ待つだケ。ロウ・バルト、失敗許さなイ」、
それだけ話し終えると、両目を閉じてこう話を締めくくった。
「おんナ。こレ、ロウ・バルト。おまエ、メタモルフの共生者。こレ、受け取れル。ロウ・バルト二知らせル、はこうすル」
かっと目を見開いた人狼の瞳孔は大きくなり、深遠の暗闇のようだった。
ジェンはその闇に捕らえられ、飲み込まれたような気がした。
真っ白な彼女の脳裏に、闇色の濃厚な酒が注がれたようだ。
一時に注がれたロウ・バルトという濃厚な闇の酒が、ジェンの心を翻弄する。
彼女の目前に『ロウ・バルト』という存在がいる。
地模様のある黒絹の長衣をまとった、痩せぎすの若い男性。
年齢は20代半ばだろうか。
朱色がかった赤毛と、灰色の目の端正な顔立ち。青白い肌と薄い唇。
その顔立ちは、どこかロヴを連想させた。
口の端には、酷薄そうな笑みを浮かべている。
首筋にぴたりと短剣を押し当てられたような、そんな感じのする男性だった。
この男は強い。油断をしてはいけない。
ジェンの持つ、あらゆる危険を察知する勘が、そう警報を鳴らしている。
ジェンが我にかえった時、いつの間にか立ちあがって腰の長剣を手にして戦闘態勢をとっていた。
目前の『ロウ・バルト』に反応したのだ。
ジェンは、人狼が知っているロウ・バルトについて全てを『知って』いた。
人狼が何らかの力を使って、全ての情報をジェンの心に直接伝えたのだ。
二重に魔法で封呪されているのに、彼の精神の力は凄まじいものがあった。
ジェンが人狼の方に目をやると、その痩せた体は力なく地面に横たわっていた。
人狼の体から、命の炎が感じられない。
人狼は事切れていた。
最期の力で、ジェンに全てを語り、自らを解放したのだ。
「…何故だ」
ジェンの唇から、かすかな声がもれた。
「何故、死を選んだ」
そうです。
強制的に相手の心に記憶と感情をダウンロードするような感じかと思います。
ロウ・バルトという敵方も付き合いの長いキャラではあります。
今回、文章で書く事によってさらに自分の中でリアルに動き出しました。
人狼は他者を信頼する事はなかったのでしょう。
予定調和の最後とはいへ、やはり悔いが残る死なせ方をしたかなと思います。
パソコンに情報をダウンロードするような感じでしょうか。
ロウ・バルト、思った以上に恐い人ですね。他者を完全に制圧して、その事に罪悪感無さそうで。
ジェンが人狼と、ロウ以外の事について語り合う前に自死を選んでしまった事が残念です。
ジェンやカイルともう少し話し、助けを借りる事ができるかもという希望を得る事ができれば、
もう少し違った結末もあったかもしれませんね…。
さあて、私に極悪人がかけるのかな。
そんな面もさがせば、私の中にも見つかると思うんだけど。
どうなるか、楽しみに待てってください。
人狼に 優しささえ 与えず・・・ 憎いですねー
なんか 児童虐待を 想像してしまいました^^;
ロウ・バルトも 優しさを知らずに 育ったのかなぁ・・・
人狼の分まで 頑張れジェン!! (`・ω´・+)ノ
…申し訳ない。
初めて登場人物の死者を出しました。
予定通りの展開だけど、やはり心がいたい。
その場面は、すきやないんやなあ。
話を描く上では、どうしたって死人はでるんやけどね。
でも最後に正しい行いをして、自らの罪とロウ・バルトから解放された人狼の魂は
きっと故郷の森を駆け回ってるよね!
予定通りの展開なんですが、ちょっと胸が痛いです。
こんな展開でごめんさないね。
これから、ロウlバルトがでてきます。
どうなるか、作者にもまだわからないなあーー;
最後に自分の命をかけてまで
ジェンに秘密を教えてあげるなんて....
ロウ・バルト怖い存在ですね(@_@;)