北の少年 砂海編 42ー2
- カテゴリ:自作小説
- 2010/07/19 17:43:05
このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。
長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;
「何故・・・何故だ!」
血を吐くような叫びを上げて、ジェンは牢の鉄格子にすがりついた。
「馬鹿野郎!もう少し耐えたら、ほんの少し耐えたら、お前をなんとか自由にしてやれたかもしれないのに・・・」
ジェンが見守る前で力尽きたように横たわる黒い人狼の体が、人間のそれから狼のそれへと変化した。
それと同時に四肢を戒めていた封呪の縄が、狼の体から滑り落ちた。
人間の姿を保てなくなったということは、人狼の魔力が無くなって封呪の魔法が威力を失ったことを示す。
つまり、人狼の生命が完全にこの体を離れてしまったのだ。
「死んで自ら自由を選んだというのか?生きてこその自由だろう。その足で北の森を駆けてこそだろう」
感情を込めないジェンの言葉は、かえって内心の激情を表しているようだった。
傭兵として生きたきたジェンにとって、最大の目的は生き延びることだった。
雇い主と契約を交わしたら、その契約を守るために最大の努力をする。
そのためには生き続けることが必要だ。
だから自ら死を選ぶのは、傭兵のジェンにとっては最大の禁忌といえた。
それ以上に生きてこその人生、その思いが強かった。
どんなに辛くても、生きていれば必ず道は開ける。
死んだらそこで全ては終る。
何もかも終ってしまうのだ。
死を選んだ人狼の心情は良くわかる。痛いほど解る。
普通、命を狙って襲撃した相手に囚われたら、どう考えてもこのまま殺されると思うだろう。
もし、なんとか逃げ延びても、あのロウ・バルトがただではすまさないだろう。
ロウ・バルトを『知った』ジェンには、それがよくわかる。
「それでも、それでもだ。・・・生きてこそなんだぞ」
ジェンの瞳から、一筋涙がつたい落ちて、乾いた床を濡らした。
「・・・ケニス殿に、報告しなければ。・・・契約破棄になるかな…」
力なく肩を落として、抜き身の剣を鞘に収めジェンはその場を後にした。
振り返ることはしなかった。
もはや、人狼はそこにいないのだから。
ロヴは再び白い靄の空間に立っていた。
一瞬自分が何処にいるのか解らなくてあわてたが、祖父のハランと夢の中で出会った場所だと思い出した。
「また、爺ちゃんが?」
祖父が会いに来たのだろうか?
もう、大いなる生命の流れに還ってしまったはずではなかったのか?
自分の為に還れずにいるのか、そう考えてロヴは焦った。
一人で生きていくと強く決心したのに、また祖父を呼びもどしてしまったんだろうか。
「ちがウ。安心しロ」
軋んだ声が、ロヴの耳に聞こえた。
真後ろからだ。
あわてて声のした方を振り向くと、そこには一頭の真っ黒な狼が立っていた。
ロヴが知っている狼よりも一回り大きく、金色の瞳にはどこかカイルを思わせるような光が宿っている。
「やっト、会えたナ。ロウ・ヴェイン」
驚いたことに、その狼はにっと笑った。
鋭い犬歯が全部覗いて、赤い舌がだらりとたれた。
狼が笑った顔など、ロヴは見た事がない。
ないのだが、笑ったとしか思えない表情だった。
それ以上に驚いたのは、初めて会う狼が自分の本名を知っていたことだ。
警戒したロヴは、腰の短剣に手をかけ油断無く身構えた。
「心配なイ。もうすグ逝ク」
狼は軋む声でそういうと、くんくんと鼻をならした。
「おまエ、一度みておきたかっタ。おまエ、魔法使イ、間違いなイ。その短剣、大切。大事にしロ」
狼の金の目がすっと細くなって、ロヴの短剣を見つめる。
「短剣、メタモルフ、同ジ臭いすル。おまエ、ロウ・バルト、同ジ臭いすル。でモ、ちがウ」
つたない話し方ながら、狼が何か大切なことを話しているのが少年にも理解できた。
ロヴは何一つ聞き逃さないように、神経を集中させた。
軋む声はさらに話を続けた。
「おまエまもル、おんナとメタモルフ、大事。ロウ・バルト、おまエ、狙ってル。二人、おまエ、守る。間違いなイ」
黒い大きな狼は、そっとロヴのそばに近づいてきた。
あと一歩の距離まで近づいて、ロブの体臭をくんとかぐ。
「こノ臭イ。一年、待っタ。もウ、待つこトなイ。俺、帰ル。さらバ、ロウ・ヴェイン」
それだけ言うと、狼は地を蹴ってロヴの体を軽々と飛び越えた。
黒い大きな体が空を駆けて上空へと上がっていく。
「俺ハ、還ル。森へ還ル」
最期に聞こえたのは、狼の遠吠えだった。
喜びに満ち溢れた、自由な魂の歌声だった。
なんというか、そう感想をいただいて、感無量です。
死と向かいあうのは、どんなものであれ辛いもの。
ジェンは傭兵でいくつもの死を見ているでしょうが、やはり辛いと思うのです。
まだ若いロヴでもそれは変わらない。
二人の成長を見守ってください。
人間と少し違っているのでしょうか。
旅立つのではなく還るという言い回しがあまりに晴れやかで、少し悲しく
感じられますが、人狼が喜びのうちに従属から解き放たれたのは良かったです。
死に立ち会うたびに、人生観って変わりますよね。ジェンとロヴ君に、
これからどんな変化と冒険が待っているんでしょうか。楽しみです^^
開放の歌声ですね^^
人狼は最期は自分でこう動くというので、その通りに筆をすすめたんですが・・・。
なんだか、自分の話であって自分の話じゃないような感じかな?
死んでしまったけれど よかったです^^ ホントに・・
人狼の最期はこんな風に収まりました、
今回は、人狼が勝手に動いてくれたようなもの。
私は彼の行動を追いかけて、心情を語っただけみたいな。
時々、こんなことがあるんだよね~不思議だ。
それと短い間でもカイルとの小さな友情に触れて、ジェンという正しい人間の心を知った時
だけだったんだよね!
最後にそれを知れたからこそ、死後森へ還ることができたんだね!!
これで、このオアシスでの主な出来事は終わり。
また、旅がはじまるはず・・・なんだけどな^^;
もう少しかかりそう。
ロヴの成長に、お付き合いしてくださいね。
ロヴに勇気な言葉を言ってあげて
強い魔法使いになりそうですね(^_^)v