創作小説「本物を探して」3
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/08 01:04:48
「平行世界シリーズ」
第3話
何も考えられない。
茫然と唇に触れる暖かさを感じ取っていた。
どれくらい立っただろうか。長いようにも短いようにも感じられたが、十秒程は確実にしていたと思う。
パニック状態の私を他所にコセは、
「行ったようだな」
と、呟いている。
彼は警備隊が来ようとしているのを見て、ここでキスしている恋人を見れば、絶対近寄っては来ないと考え確信したのだ。
それが判っていたとしても、私は茫然とした気持ちを押さえる事は出来ない。
初めての……ファースト・キスが……。
感傷に浸る、なんて事はしない。それよりも現実的な、
『父王に知れたら、コセは八つ裂きにされるぞ……』
であった。一人娘に手を出したんだから。
コセは私の様子に気づくと、顔を真っ赤にさせた。
「ご、ごめん。これしか方法が考えられなくて……」
しどろもどろに照れながら言う。やけにかわいい、と思ってしまったのだが、年上に対しては失礼だろう。
「見せ付けてくれるねぇ」
と、突然の声。
そこにはコセを追いかけていた、ごつい男達4人が私達を囲むようにして走り込んで来た。
「一難去って、また一難」
溜息をついてコセが落ち着いた態度で呟くのを聞いた。
彼らが怖くて逃げてた訳じゃないの?
私の頭はまだパニくってる。
「剣を渡してくれさえすれば、こっちはいいんだよ」
リーダーらしき人が宣う。
そして、私は彼らの囚われの身にされてしまったのだ。茫然としていて隙を見せていたのがいけなかった。
「レイラ!」
「さぁ、どうする?」
勝ち誇った顔をする男達。
「ほらほら、早くしないとこの娘の細い首、へし折っちゃうよ」
私を羽交い絞めしている奴が、調子をこいて掌を首にかけてくる。
細いと言ってくれたのは有り難いんだけど、まだまだ甘いわよ。あんた達。私を誰だと思っているのよ。
この国の王女よ!
「くっ」
なんてコセも困ったように呻き声をあげている。
しょうがない。私が一肌脱ぎますか。
小さく溜息を付くと、素早く視線を動かし、目的のものを見つけた。
これでもこの国の王女。
こういう場合の乗り切り方くらい、嫌と言う程教え込まれたわよ。
まず始めに、私は私を捕らえている奴の足を思いっきり、踏ませてもらったわ。
「おわぁっ」
痛みの声を上げて、力を緩めた隙に、私は目的のものに手を伸ばした。
すらりとそれを引き抜くと、さっきと逆に首に圧し当ててやったわ。
狙っていたのは腰に下げていた剣。
剣術も覚えさせられて、知っている。
形成逆転と言った所。
そして、コセの方に視線を移すと、そこには信じられない光景が移っていたのよね。
私の行動に目を奪われた奴らから、彼もまた素早い動きで相手の剣を引き抜き、振り下ろしていたの。
それが見事な剣裁きで、相手に傷ひとつ付けない。
見掛けがボロの剣が、彼の手に渡っただけでどんな物でも切れそうな、鋭利な剣に変わっている。
被服一枚を奇麗にすっぱり切り裂いて、剣の先を目前に突き付けていたのだ。
先程とは全く違う鋭い瞳。
「俺の前から消え失せろ。命が惜しかったらな」
ゾッとするような低い、冷酷な声で話す。
あわてふためいて4人の男達はその場を去って行った。
「馬鹿な奴ら。この俺に本気で刃を向けようなどと……」
そう、小さく呟きを聞いたのは空耳ではあるまい……。
「はぁ……」
また溜息が出てしまう。
あの日からもう2日、立ってしまった。
自室の壁には一枚の絵画が掲げられている。
金髪碧眼の優しそうな笑顔を見せているかっこいい男。
政略結婚の相手、大国の第2王子、婚約者だ。
絵画だけでは本当の人物は判らない。脚色している可能性がものすごくあるからだ。
ついつい、前に逢ったコセの事を思い出してしまう。
今思い出してもカッコ良かったぁと、しみじみ考えてしまう。
あの剣裁きのカッコ良かったこと。惚れ惚れしてしまう程鮮やかだった。そして、あの時の長いキス。
思い出しただけで顔がほてってくる。
成り行きとはいえ…………。
まだ残っている唇の感触。
無意識に指で唇を触ってしまう。
「会いたいなぁ……」
ついつい呟いてしまう。
またここから抜け出そうかしら。そう思った時に侍女が走って来る足音が聞こえて来た。
感情に浸り切っているのに静かにしなさいよ、とムッとしたが何が起こったかはもう知っている。
こんなにドレスアップしているのもそのためなのよ。
今日は婚約者と御対面、という訳なの。
朝から用意していてやっと来たみたい。
ドアを今更ながら静々と開ける。そんな事よりあなたの足音の方をどうかしなさいよ、と心の中で言いながらも、私はお姫様を演じている。
「クイレイラ様。国王様がお呼びです」
「判ったわ」
我ながら二重人格よね。
相手がどんな顔なのかじっくり拝んでやろうじゃないの。
心とは裏腹に態度は満面の笑みをくれてやるわ。
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- ハラミ。
- 2010/08/11 05:13
- 拝見。乙女な回ですね。14,5歳?の印象です。
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