Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「本物を探して」3

 「平行世界シリーズ」

本物を探して


第3話

 何も考えられない。

 茫然と唇に触れる暖かさを感じ取っていた。

 どれくらい立っただろうか。長いようにも短いようにも感じられたが、十秒程は確実にしていたと思う。

 パニック状態の私を他所にコセは、

「行ったようだな」

と、呟いている。

 彼は警備隊が来ようとしているのを見て、ここでキスしている恋人を見れば、絶対近寄っては来ないと考え確信したのだ。

 それが判っていたとしても、私は茫然とした気持ちを押さえる事は出来ない。

 初めての……ファースト・キスが……。

 感傷に浸る、なんて事はしない。それよりも現実的な、

『父王に知れたら、コセは八つ裂きにされるぞ……』

であった。一人娘に手を出したんだから。

 コセは私の様子に気づくと、顔を真っ赤にさせた。

「ご、ごめん。これしか方法が考えられなくて……」

 しどろもどろに照れながら言う。やけにかわいい、と思ってしまったのだが、年上に対しては失礼だろう。

「見せ付けてくれるねぇ」

と、突然の声。

 そこにはコセを追いかけていた、ごつい男達4人が私達を囲むようにして走り込んで来た。

「一難去って、また一難」

 溜息をついてコセが落ち着いた態度で呟くのを聞いた。

 彼らが怖くて逃げてた訳じゃないの?

 私の頭はまだパニくってる。

「剣を渡してくれさえすれば、こっちはいいんだよ」

 リーダーらしき人が宣う。

 そして、私は彼らの囚われの身にされてしまったのだ。茫然としていて隙を見せていたのがいけなかった。

「レイラ!」

「さぁ、どうする?」

 勝ち誇った顔をする男達。

「ほらほら、早くしないとこの娘の細い首、へし折っちゃうよ」

 私を羽交い絞めしている奴が、調子をこいて掌を首にかけてくる。

 細いと言ってくれたのは有り難いんだけど、まだまだ甘いわよ。あんた達。私を誰だと思っているのよ。

 この国の王女よ!

「くっ」

 なんてコセも困ったように呻き声をあげている。

 しょうがない。私が一肌脱ぎますか。

 小さく溜息を付くと、素早く視線を動かし、目的のものを見つけた。

 これでもこの国の王女。

 こういう場合の乗り切り方くらい、嫌と言う程教え込まれたわよ。

 まず始めに、私は私を捕らえている奴の足を思いっきり、踏ませてもらったわ。

「おわぁっ」

 痛みの声を上げて、力を緩めた隙に、私は目的のものに手を伸ばした。

 すらりとそれを引き抜くと、さっきと逆に首に圧し当ててやったわ。

 狙っていたのは腰に下げていた剣。

 剣術も覚えさせられて、知っている。

 形成逆転と言った所。

 そして、コセの方に視線を移すと、そこには信じられない光景が移っていたのよね。

 私の行動に目を奪われた奴らから、彼もまた素早い動きで相手の剣を引き抜き、振り下ろしていたの。

 それが見事な剣裁きで、相手に傷ひとつ付けない。

 見掛けがボロの剣が、彼の手に渡っただけでどんな物でも切れそうな、鋭利な剣に変わっている。

 被服一枚を奇麗にすっぱり切り裂いて、剣の先を目前に突き付けていたのだ。

 先程とは全く違う鋭い瞳。

「俺の前から消え失せろ。命が惜しかったらな」

 ゾッとするような低い、冷酷な声で話す。

 あわてふためいて4人の男達はその場を去って行った。

「馬鹿な奴ら。この俺に本気で刃を向けようなどと……」

 そう、小さく呟きを聞いたのは空耳ではあるまい……。

  

「はぁ……」

 また溜息が出てしまう。

 あの日からもう2日、立ってしまった。

 自室の壁には一枚の絵画が掲げられている。

 金髪碧眼の優しそうな笑顔を見せているかっこいい男。

 政略結婚の相手、大国の第2王子、婚約者だ。

 絵画だけでは本当の人物は判らない。脚色している可能性がものすごくあるからだ。

 ついつい、前に逢ったコセの事を思い出してしまう。

 今思い出してもカッコ良かったぁと、しみじみ考えてしまう。

 あの剣裁きのカッコ良かったこと。惚れ惚れしてしまう程鮮やかだった。そして、あの時の長いキス。

 思い出しただけで顔がほてってくる。

 成り行きとはいえ…………。

 まだ残っている唇の感触。

 無意識に指で唇を触ってしまう。

「会いたいなぁ……」

 ついつい呟いてしまう。

 またここから抜け出そうかしら。そう思った時に侍女が走って来る足音が聞こえて来た。

 感情に浸り切っているのに静かにしなさいよ、とムッとしたが何が起こったかはもう知っている。

 こんなにドレスアップしているのもそのためなのよ。

 今日は婚約者と御対面、という訳なの。

 朝から用意していてやっと来たみたい。

 ドアを今更ながら静々と開ける。そんな事よりあなたの足音の方をどうかしなさいよ、と心の中で言いながらも、私はお姫様を演じている。

「クイレイラ様。国王様がお呼びです」

「判ったわ」

 我ながら二重人格よね。

 相手がどんな顔なのかじっくり拝んでやろうじゃないの。

 心とは裏腹に態度は満面の笑みをくれてやるわ。

【続く】

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2010/08/11 05:13
拝見。乙女な回ですね。14,5歳?の印象です。




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