Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「次期王の花嫁」5

「平行世界シリーズ」

次期王の花嫁




5

 

他の者の邪魔にならないようにと壁にもたれ、ぼーっと会場を見渡していた。壁には絵画がいくつも並べられ、天井には大きなシャンデリアが吊り下がっている。

ここぞとばかり着飾った貴婦人たちが溢れていて、各々談笑に華を咲かせている。

時折、側を通ると漂ってくるきつい香水の匂いに呼吸を我慢しながら、ウェイターが運んでいたグラスを受け取り口にする。

国主催ということあって、女性向けでもあるのか少し甘めだがいい果実酒を振舞っている。

まだマキセもシキアも戻ってくる気配はなく、見当たらない。

知り合いもいない場所にひとり残されて、どうしようかと先程から視線ばかり動かしていた。

たいした用もないのに人に話しかけるのは苦手だった。

社交が苦手とはこういう意味だ。

仕事とかなら、伝えるべき事があるので平気なのだが。

「あれ?」

色とりどりのドレスの人々に埋もれるようにして綺麗な金色の髪が見えた。

窓際のソファに腰かけたひとりの少女。

周囲に比べたらやや地味な服装は、たぶん足の捻挫を目立たなくするためにはいているブーツに合わせてのことだろう。

きらびやかなドレスでは高いヒールでないと合わないから。

それでもクーデノムにとっては好ましい印象として彼女が捕らえられた。

「ひとりですか?」

来る途中にウェイターからもらったグラスを渡しながらクーデノムは話しかけた。

「みんな私を置いてどこかに消えちゃった」

笑顔でグラスを受け取った彼女、セーラ。

「私もです」

「クーデノム様が来るから来たんだけど、動けなれば楽しくないね」

「え? 私ですか?」

「うん。私の口から御礼を言ってなかったから。助けて頂いてありがとうございました」

「いえ、たまたま私のいる所に落ちてきただけですから。お陰で招待してくださいましたし」

「クーデノム様は苦手そうですね」

「え?」

「先程からずっと見てたんですけど、一人で立っていらっしゃったから」

「そうですね、こういう社交的な場所は慣れていないので」

「クスイでは王宮に仕えているのに?」

「私の文官の仕事は書類相手ですから」

広間に音が流れ出す。

数人の楽士が広間に作られた特設舞台で演奏をはじめたからだ。

優雅な旋律に合わせて、ダンスを踊りだす人々がちらほら見える。

「足を怪我してなかったら、クーデノム様と踊れたのにね」

「いえ、私は踊れないですから、同じように見てるだけですよ」

苦笑したクーデノムの視界にマキセと一緒に近付いて来るコセラーナが映った。

シキアも共にいて、何やら歓談していた模様。

「もう飽きてしまったか?」

「…いえ…こういう所は慣れていないので、何をしていいのか判らないですね」

「俺も苦手だからな、こうやって話している所にわざわざ話しかけてくる無粋な者はいないだろう、ということだよ」

「私達は利用されてるんですね」

「時間を有効に使っているだけだよ」

コセラーナの物言いは嫌な感じを受けず、クーデノムも不思議と構えずに楽しむことができる。

「さすが国主催の宴だけあって華やかですね」

「あぁ、特別らしいからな」

そう言って促されるように送った視線の先には17.8くらいの利発そうな若者がいた。

「ルクウートの王子だ。年齢的に花嫁候補探しだろう」

「…そういう訳ですか」

自己主張の激しそうな若い女性が目に付くのも、そのためかと納得。

ふと顔を上げた王子と目が合ってクーデノムは会釈をすると、王子も微笑で軽く会釈を返してきた。

「優しそうな青年ですね」

剣術の国の王子としては肉体系でない容姿にイメージのギャップに意表をつかれたクーデノムだったが、コセラーナも印象は同じだったらしく肯いた。

「でも噂によると、剣を手にしたら誰もが認める腕らしいな」

「コセラーナ様も彼を目当てに来たのですか?」

王女であるセーラ姫なら年齢的にも地位的にもつり合いはとれる。

「……最初は様子見と思ったのだけれどね……」

チラッとセーラを見て、くすくすと楽しげにコセラーナは笑みを浮かべた。


【続く】

コセラーナの昔話「本物を探して」の短編をUPしています。
そちらもよろしくです。
コセラーナ視点で書いた同じ話「偽物を見つけて」のニコタブログUPはちょっと微妙なので、検索したらどこかのサイトにひっかかるかもです(笑)。

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2010/08/11 05:30
拝見。





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