創作小説「居場所を求めて」前編
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/11 01:45:54
「平行世界シリーズ」 目が覚めると知らない部屋にいた。 綺麗に装飾が施された天井は幾何学模様を描き、質素だが品の良い感じに思えた。 周囲に人の気配はしなかった。 『何故、こんな所にいるんだろう……』 疑問が沸きあがってくる。 そして最後の記憶を思い出し、今度は口に出して呟いた。 「……僕は…生きてる?」 人がいない訳ではない。 屋敷を任されている執事の他に使用人が5人働いているのだが、誰も事情を知らないという。執事であるリヤエでさえ聞かされていないと。 「貴方の身を屋敷内で預かるようにと伺ってます。内であれば自由にして頂いて結構です」 と。 まだ何かを隠しているとリヤエの様子から判ったが問い詰めたりはしなかった。彼も主人の命令に従っているのだろう。 それと、彼の瞳から人を蔑むような感情を見つけられなかったからかもしれない。 「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」 「…シキアです」 「シキア様、ですね」 彼は微笑してうなずいた。 屋敷内だけと言われた時は軟禁状態だなと思っていたのだが、それ以外は本当に自由だった。 見張りがつくだろうと思っていた行動も何もなかった。 お陰で屋敷内の散策がゆっくりと出来た。 建物は2階建てで貴族の屋敷としては小さいほうだなと思った。屋敷の中心には吹き抜けのホールが設けられ、すべての部屋はホールを通らないと行けないようになっていた。 出入り口は玄関と厨房の勝手口のみ。 1階は厨房・倉庫・食堂・応接室2つに使用人の個室。 2階は客室に主人の個室・書斎等だった。 貴族の屋敷として小さめなのは主人はまだ家族を持っておられないせいだろう。それとも十日も姿を現さないことから、ここは別荘として使われているのかもしれない。 落ち着いた温かみのある屋敷にシキアは好感を抱いていた。 対象的に頭をよぎるのは冷たく重いイメージ。 華美過ぎる装飾は不快を与えられるだけ。 誰もが皆、表面だけの笑顔をつくり他人の行動ばかりに気を向けていた。 思い出してシキアは笑った。自嘲した笑いだった。 大声を上げて笑いだそうとするのを理性が止めた。 あてがわれた自室に戻り、枕に顔を埋めた。 涙が溢れて止まらなかった。 この屋敷の主人はどんな人だろう……。 想像して期待をしていた。 そんな事を考えていた自分に対して呆れて憤りを感じた。 「何故、僕は生きてるんだろう」 死を覚悟したはずなのに。 差し出された飲み物をためらいもなく口に運んだのに。 いや、それ以前から。 僕は死に場所を求めて計画に荷担したのだ。 歳の離れた兄がいた。 代々王に仕えている家系で父も兄も例外ではなく、むしろ親密に仕えていた。 砂漠の国・タヤカウの現王に。 そのため、家の名も「タヤ」という名を与えられていた。 当然。シキアも王に仕えるための教育を父から厳しく学ばされ、学校を修めると王宮へと出仕し始めた。 何でも器用にこなしていくシキアの評判は良く、まだ幼い王子も彼を慕い王の側近として有望視されていた。 しかしそんなシキアを快く思っていない者がいる。その筆頭が現王の側近を勤めている者…シキアの実兄だった。 兄とは言っても歳が離れていて共に成長した訳ではない。兄もまた学業を修めてすぐ王宮へと出仕したので、シキアが物心ついた時には殆ど会うことがなかった。 それでも兄は兄。 そして、今現在で最も権力を持っているのはその人なのだ。 例え実弟でも自らの位を脅かす存在は容赦しなかった。 砂漠の国であるタヤカウ国はオアシスのある王都は人が集まり栄えていた。しかし都から離れてしまうと貧しい街が数多くある。小さな水源に頼らなくては生きて行けない国がタヤカウ国だった。 王宮暮らしともなると渇きの心配はなくなる。 誰もが生活の安泰を求めて…力を持った者にへつらうように、いつからかそれが当たり前になっていた。 兄の機嫌を取るためにシキアを敵視する貴族は少なくなく、そんな生活にシキアはだんだん息苦しくなってきていた。 そこに舞い込んだ隣国の噂。 小国のテニトラニス王女と大国リサニルの王子の婚約話。 北陸に位置する大陸は現在4つの国が存在していた。 タヤカウと国力を同等とするリサニルが、この婚姻話で今以上に力を付けることは目に見えていた。 それはタヤカウにとっておもしろくない。 様子を見ていたシキアの元に兄からの指令が届いたのは間もなく。 リサニル・テニトラニスに赴いて噂の真相を探り、真実ならば縁談を壊せというものだった。
居場所を求めて
前編
目覚めてから十日程経ったが現状を説明してくれる人は現れない。
続く
ひきこまれて一気に読んでしまいました。
次、後編いきまーす。