創作小説「TONE」5/6
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/04 22:49:45
「TONE」
第5話
キーンと一番端の鍵盤を叩く。
「俺が楽しむためのライブだから、さ」
振り向いた視線の先はユウ。
「俺の夢、叶えてよ」
「わがまま」
「今更だろ」
タキがユウをほらと促す。
近くで見たピアノ前に立つ彼は、間違いなくあの時の彼だった。
「曲は?」
「あの時のがいいなぁ」
「今、夏前だけど」
「いいじゃん、真夏のクリスマスって感じで」
「……タキさん…」
ユウは側にいたタキに何かを言付けると、タキはソデに一旦姿を消す。
そして間を置かずにすぐに戻ってきた。
手でOKのサイン。
なんだろうと不思議に思うものの、ユウがピアノの鍵盤を端から一気に鳴らし、ポーンとひとつの音をとる。
音の調律は大丈夫のようだ。
「ピアノのある舞台って…計画でしょ?」
「今日の応援のお礼だと思ってさ」
椅子に座ったユウの指が鍵盤の上を滑りだす。
「このメンバーで初めて演奏した曲です」
そんな説明をしてマキはスタンドマイクの前に立つ。
そう言えば聞いたか雑誌で読んだことがある。
マキとユウの出逢い話。
街なかの楽器屋でキーボードを弾いていたユウに、突然楽譜を渡してライブでいきなり弾かせたという、クリスマスソング。
どうしてもピアノの音が欲しかったから、と。
『今度は生ピアノ希望』
キーボードからの作られた電子音のピアノは、物足りないと呟いたらしい。
そんなマキの願いが、今現実になるのをこの目で見れる…耳で聴けるとは!!
静まり返った空間に響く、スローテンポのリズム。
マイクが拾ったマキの声は透明感のある切ない声。
蒸し暑い夏のはずなのに、会場の雰囲気は冬の夜。
サビの部分に入った時、聞こえてきたもうひとつの音。
マキ自身も驚いたように視線を動かす。
客席からは音の主は全く見えないのだが。
私は誰だか判った。
聞こえてきたのが、バイオリンの音だったから。
雪が降り積もる銀世界の幻想が見える気がした。
ユウがマキと視線が合って笑みを見せる。
『だって、お礼でしょ』
と聞こえないけど口の動きでそう言った気がした。
それで思い出した。
花束と封筒を持ったグラサンの怪しいお兄さん。
あれはマキ自身だったんだ。
静かな空間にバイオリンの音が響いていた。
音が消えても静まり返った会場。
余韻に浸りたい気分。
なんだなんだ、目がにじむ。
でも割れんばかりの拍手が起こると私も必死に手を叩いていた。
【続く】
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
次回で最終回です。
クリスマスライブの話は「piano」という散文詩的話を「TONE」以前に書いたモノがあります。
また探し出しておこうと思っています(笑)
「piano」…ようやく見つけました!
パソコンのデータには入ってなくて、データを飛ばした中にあったのか、ワープロ時代のモノだったのか。
ようや無料く配布本として冊子にしていたモノを見つけましたので、これからパソコンに打ち込みますです。
読んで…懐かしさが…8年前だった。「TONE」は7年前。
「piano」読んでみたいですねぇ