創作小説「ソハコサ国の勇者」4
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/13 20:30:16
「平行世界シリーズ」
ソハコサ国の勇者
第4話
翌日。
天気は快晴。
先日のゴジラモドキとの戦いを見て、ソハコサから派遣された魔導師と勇者だと知って、町から丁寧な対応を受け、温泉街で一番良い宿に泊まることができたのだった。
妙子は心行くまで温泉と料理を楽しみ、ゆっくりと眠ることができた。しかし、温泉町であるここは蒸気の熱気のため、惰眠を貪るとまではいかなかったらしい。
しかたないとばかりに起き出して、準備された朝食に手をつけていた。
そんな時に、また事は起こったのだった。
いきなりの地震かと思うような大地の揺れ。
定期的に起こるのでそれが地震ではないとすぐに判る。
でも、それの正体は感じるだけでは判らない。
「いったい何事!?」
バンッと窓を開けて妙子は叫ぶ。
目前の広場には大きな影。
巨大な肉塊。
そして、くるりと振り返った奴の瞳と目が合った。
一瞬の沈黙……。
「うっ、……きゃーっ!!」
宿中に響き渡る程の大声の叫び。
その声を聞き付けてエカーチェフが部屋に飛び込んで来る。
「大丈夫ですか?」
窓から妙子を庇うようにして前に出る。
窓から中を覗き込むようにして見ている奴は、昨日に会った怪物だった。
彼女が叫ぶことによって、二人の存在の位置を教えてしまう形になってしまった。
「ここにいたか、貴様ら……昨日のお返しはたっぷりしてやるからな、覚悟してろ」
ドスのある声で言ったが、妙子には全く通じない。
「ワンパターンな奴……」
小さく呟く声をエカーチェフは聞いて、苦笑した。
さっきの叫び声はどこへいったんだ、と。
それでも気を取り直してヤツを睨みつける。
再び前に現れたのだからこの機会を逃してはならない。
捕らえなければ。
「妙子さん。外へ出ますよ」
「えーっ。私も行くの?」
「当たり前です」
ちぇっと拗ねた振りをする妙子へエカーチェフは、
「ここから飛び下りますよ」
と、簡単に言ってのけた。
「ちょっ、ちょっと。私そんな事できない!」
これはかなり真剣な訴えだ。この場所は2階。高さは4m~5m程はある。普通の女の子がすぐ飛べるような高さではない。
「大丈夫です。私が支えますから」
そう言うと妙子が嫌がるのを無視し、彼女の腕を取って窓から飛び出した。
体を占める浮遊感。
次の瞬間には軽いショックと共に地に降りていた。目を閉じていたから何がどうなったのかは判らない。
でもエカーチェフの魔導のおかげだということだけは確かのようだ。
しかし、安心できない。目前に異形の怪物がいるのに変わりはないのだから。
敵意を剥き出しにして今にも襲って来ようとしている。
「わ、私こんなのと戦えないわよ!」
「妙子さんがまともに戦えるなんて思っていません」
うろたえる妙子にエカーチェフが言い放つ。
そう、それは初めから判っている。彼女が非力な少女ということは。でも、自分の《力》を信じるなら、自分の声に導かれ呼び出された彼女なのだから、何かあるはずだ。
何の《力》もない彼女が、自分が訴える〈声〉に答えられるはずはないのだから。
予想のごとく、以前と同じ〈炎〉の攻撃を繰り出してくる。
「飛びますよ」
一応彼女に断っておいてから、支えるようにして腰に手を回し、横に飛ぶ。
前みたいにコケられたら次の攻撃をかわせなくなってしまうからだ。
そんな中で妙子が、
「エカーチェフ。逃げるだけじゃなく、何かできないの?」「何かって?」
「攻撃は最大の防御って言うでしょう!?」
「……初めて聞く言葉ですね」
そう返したエカーチェフは微笑していた。
長い前髪からチラリと見えた蒼い瞳に光が走った。
仕方がないとばかり息を大きく吐くと、エカーチェフは全身を覆っていた深緑色の法衣を脱ぎ、幾度か折り畳んで動きやすいように肩にマントのようにして巻いた。
首筋まである髪をひとつに束ねて結び、前髪をうっとうし気にかきあげる。今まで髪に隠れていた蒼い瞳が現れる。
辺りをキョロキョロと見渡して、近くの壁に立てかけてあった剣を、
「ちょっと借ります」
と手に取り、怪物の下へと向かって行った。
細く伸びた長い四肢は無駄な筋肉など殆どなく均整が取れている。
力強く握った長刃の剣を、軽い身のこなしで暴れる怪物の腕に突き刺した。
どべっと赤茶色の血液が流れ出る。
ぐわあぁっと悲痛の声を上げた怪物を横目に、今度は距離を少しおいて対峙した。
剣についた怪物の血。
その剣で今度は自分の左の人差し指を傷付け、血を垂らした。
第4話です。
エカーチェフくん、本領発揮中です(笑)
もしかして・・・ ゲームの ファイナルファンタジーみたいなのが 出てきちゃうんですかあ??
ドキドキ。。。 楽しみぃ~~~~~♪♪ ありがとうございました!