創作小説「ソハコサ国の勇者」6
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/15 23:04:29
「平行世界シリーズ」 本編
ソハコサ国の勇者
第6話
「……エカーチェフ…?」
名前を呼んでも返事は返って来ない。
広い石造りの部屋で妙子の声だけが響いている。
床に敷かれた深緑色の布は、エカーチェフがまとっていた魔導師の法衣。
急に不安にかられ、妙子は法衣をきつく握りしめた。
この世界に呼び出されて、たった一人。
頼るべき相手はエカーチェフしかいないことに今更ながら気付いた。
「…私ひとりで…どうすればいいんだろ……」
部屋を見渡し、出入り口を見つける。
何もない広間。
『出ても大丈夫かなぁ…』
と、妙子はエカーチェフの法衣を羽織って戸口へと向かう。
コツコツコツ……
小さな足音が廊下から聞こえてきた。
妙子は取っ手に手をかける。鍵のかかっていない扉は簡単に開いた。そこには男の子がひとり。
「あれ? …お姉さん、どうしたの?」
屈託なく無邪気な笑顔で問いかけてきたので、妙子は緊張していた身体から少し力が抜けた。
「ここはどこ?」
「う~ん…僕にも判らない」
「エカーチェフ…蒼い瞳のお兄さん、知らない?」
その時、偶然通りかかったように廊下に現れた一人の青年に、少年は親しく笑顔を向ける。
「お兄ちゃん」
「クベル、どうしました?」
「お姉ちゃんが一緒に来たお兄ちゃんを探しているって」
「たぶん、その方なら表の方へ出て行かれましたが……」
「僕が案内してあげてもいい?」
「……いいですよ」
引っ張られるようにして妙子は男の子に着いて行った。
白金の髪に碧瞳の少年の年は十歳くらいだろうか。
「僕の名前はクベルだよ」
「私は妙子」
長い石の回廊を歩いて行くと、陽の光と共に人の気配とざわめきが聞こえてきた。
もしかして騙されてどこかに連れていかれるのかも…と危惧していた妙子はほっと安堵の息をもらす。
大勢の人の中にエカーチェフの姿を探そうとキョロキョロする。しかし、逆に注目を浴びてしまった。
その原因がまとっている魔導師の法衣だと気付いて慌てて脱ごうとしたのだが……
「魔導師様?」
と、紺色の法衣を着た…ということは魔導士だろう若者が声をかけてきた。
「えっと…コレは私のじゃないの」
言ってもみんな引きつけられるように妙子の側に寄り集まってくる。
「気付いたらこんな所に…」
「突然、街ごと移動したんだ」
「ソハコサの魔導師様なら何とかできるだろう」
口々に話しだす人で騒ぎになった。
「消えたとされる街の者です。私も原因を探ろうとしてここに移転されてしまいました」
魔導士が妙子に説明する。
「でも、私は魔導師じゃない。ただ呼び出された……」
「! 召喚された勇者様!?」
魔導士の叫びは広間一杯に響き渡った。
声に引き寄せられて人が集まってくる。
小さな街ひとつの住人たちといっても老若男女が50人くらいはいるだろうか。
街の集会所のようなこの場所に住人の殆どが集まった。
何もできない〈召喚〉されただけで“勇者”と呼ばれる。
その名はカタチ的な呼称なのか?
勇者様…と自らの身を嘆くだけの者を妙子は睨み返した。
そんな所に降って沸いたように現れた勇者に頼るのは当たり前のことなのだ。
この町の人達にとっては……。
でも。
妙子にとっては全くと言っていい程、面白くない。
自分に…勇者という存在に希望を託して何もしない奴らが気に食わないのだ。
「あんた達! 自分が良ければ他人はどうでもいい訳ね。自分の生活を関係ない人の手に頼って満足できるなんて、ふざけんじゃないわよ!」
一瞬にして静まる。
ギョッとして皆が妙子に注目する。
「私は好き好んでこんな事してんじゃないのよ。他人の力なんて借りてんじゃないわよ。いくら伝説でも、古くからの習わしでも、自分達が戦えばいいじゃない。他の世界の人間を巻き込まないでよ。ここは自分達の世界でしょ!」
頼ってばかりで、自分では何ひとつしようとしない。
成功すれば適度に崇め、失敗すれば陰で言いたい放題悪口を並べ立て、卑下していく。
所詮、人間関係そんなものかもしれない。
誰もが自分が傷付くことを恐れる。厄介なことは他人に押し付け、利潤だけは自分がもらっていく。それを幾度となく繰り返し、生活していくのだ。
「自分の町は自らの力で守りなさいよ」
冷静な、感情のこもっていない一言を投げかけた。
【つづく】
第6話でーす。
新キャラがチョロッと。
そもそも「ソハコサ~」は勇者とは何?から始まった小説です。
自分でも忘れてたや↑(笑)
妙子さんの今後の成長振りが気になるところですのう。
血縁に関係あったりするのかなーと考えたりしてます。さてどうなんでしょうね?
その言葉がそのまま自分に帰ってくるような状況だねぇ・・
続きが気になるw
すごい力があるとかそれが勇者の条件ではない・・・と?