創作小説「ソハコサ国の勇者」7
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/16 22:45:44
「平行世界シリーズ」 本編
ソハコサ国の勇者
第7話
妙子の、たったひとりの17才の娘の気迫に退かされて、町人達はしぶしぶ退却していった。
「分が悪くなると、すぐ逃げ出すのも人間よね」
ボソリと呟く。しかし自分も彼らと変わらない…ずっとエカーチェフに頼ってきたのだ。
「魔導士、あんた原因は判ったの? 調べに来たんでしょ」
「…い、いえ。何か《魔導》によって移転させられたんだろうことは判るのですが……」
妙子の気迫に押されて魔導士が答える。
「そんなの私にも判るわよ。なぜこの街全体が移転しちゃったの?」
ざわざわ住人たちがざわめき始める。
「最近…そーいえば怪しい男たちがここに来ていたねぇ」
「あぁ…黒い衣装のヤツらが…」
「王都から来た、とか」「そいつらはどこに行ったんだ?」
「……黒いおじさん達…みんな死んで消えちゃったよ」
妙子の耳に聞こえた言葉は隣の、クベルからのものだった。
「死んだ?」
「うん。力が足りなかったんだろうってお兄ちゃんが言ってた」
「お兄ちゃんって……」
「さっきのお兄ちゃん。僕と一緒にお城からここに来たんだ」
「そうなんだ」
「うん。僕もずーっと前に突然、黒いおじさん達にさらわれてきたみたい」
「ちょっと待って、クベルくん、ここに来る前、どんな所にいたの?」
「風車のある大きなお城。でもその前は大きな建物があって、いっぱい車が走ってたところ」
「車!? それって……」
驚きの声をあげた妙子だったが、クベルは視線の先にある人物を見つけて声をあげた。「あ、姉ちゃんが探していた兄ちゃんだ」
視線の先には黄土色の髪をした若者…法衣をまとっていないのですぐには判らなかったがエカーチェフがいた。
「ちょっと、エカーチェフ。どこに行ってたのよ!」
群集を押し分けて妙子は彼の元へ急ぐ。
「妙子さん、気がついたんですね、良かったです」
「そんな悠長に言ってる場合じゃないでしょ」
「原因、判りましたよ」
「え?」
妙子が渡した魔導師の法衣を着こんだエカーチェフを見て、青年魔導士がやってきた。「魔導師…エカーチェフ殿?」
彼を知っていたというよりは、姿形で判断したように魔導士は声をかけてきた。
魔導師を名乗る若者は現在、ひとりしかいないというのは有名だったからだ。
「はい。任務ご苦労様です」
「私は魔導士のフレンです」「街がここに移動した原因があらかた判りましたので、すぐ元に戻しましょう」
にこにこ返事をして魔導士に準備を手伝うよう促した。
街の住人や魔導士が忙しく動き出した中、エカーチェフは妙子とクベルを連れて一旦、集会所の奥の妙子が寝ていた広間までやってきた。
「やっぱりココですね」
「何が?」
「召喚魔導を行った場所」
床に手を付きながらエカーチェフは探る。
「それでコレが、先程見つけた召喚された者」
「えぇ! コレが!?」
「コレ言うな!」
彼が取り出したのは小さな鳥かごのような箱。その中にはトカゲのような15㎝程度の生物が聞きなれない高い声でしゃべる。
しかし、よくよく見ると見覚えが……。
「魔導の試術でいろいろ術をかけられていたみたいですね」
「せっかく逃げ出したのに、お前達の所為でまた捕まったんだ」
「こいつ、あの時の怪物?」
「そう。彼がここで呼びだされたことで、空間の歪みが生じたんです。それを正さないとまた違う場所に移動するかもしれない」
「どうしてこんなのを呼び出したの?」
「…たぶん…魔導士の試術で……」
《魔導》の中でも高等な秘術にあたる召喚の術。
《魔導》をソハコサで学ばずに独自で研究してやろうとするものも皆無ではない。今のように魔導の国ソハコサの存在が公式になっていない時代なら、なお更だろう。黒の法衣を来た男達が、ソハコサが感知していない魔導士の可能性も多いにある。
「元の世界に返してあげますよ」
「本当か!?」
「えぇ、大丈夫ですまだ〈魔方陣〉は繋がっていますよ」
エカーチェフの蒼い瞳が意思を持った。
普段は前髪に隠れて笑っている瞳が、時々鋭くなるのを妙子は気付いていた。トロく要領が悪いはずなのに、総ての危機を難なく乗り越えている。本当の彼はいったいどうなんだろう……。
広間にトカゲの入った箱を置き、エカーチェフは床に両手を付き、意識を集中させていった。
こうなれば妙子は見ているしかない。
―バタバタバタバタ……
遠くから足音が近付いて来るのが判る。
勢い良く開かれる扉の向こうには、2人の男たち。
外で準備をしている住人とは違って、黒い法衣をまとっていた。
「こんな所で何をしているんだ」
魔導を行っていると気付いた一人が剣を引き抜いてエカーチェフに襲いかかろうとした。
第7話をお届けでーす。
エカーチェフが好きでたまりませんw
石投げられたらどうしようっ…ワーン(爆)
そんな心境ですっww
次こそ妙子の力がでるのかーーー??w
またまた失礼しました~~~~~ ありがとうございました!