創作小説「ソハコサ国の勇者」9
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/18 23:15:18
「平行世界シリーズ」本編 「しかし、これからどうしようかなぁ……」 「まだ何かあるの?」 溜息をついて重々しく呟く彼の声に妙子は問いかける。 「今回のことでいろいろ見えてしまったので、その対策が……」 「え? 何が判ったの?」 「…事件の背景…なんかいろいろ仕組まれていたみたいですね」 「えぇ! それ解決するまで私は帰れないの?」 声を上げて驚く妙子にエカーチェフは笑ってみせる。 「…たぶん、それは大丈夫でしょう」 良かったと落ち着く妙子に一言。 「妙子さんがいたら余計に足手まといですよ」 「何よ~~!!」 ひとしきり笑った後、目が真剣なエカーチェフに気づき、妙子は笑いを納めて口を開く。 「でも何かあるならちゃんと報告したほうがいいんじゃない?」 「このソハコサの国はまだまだ小さいんですよ。ヤナテトシム大国と対立してしまえば、すぐに負けてしまうくらいに。未確認な情報は不信感と困惑を招く」 「でも事実でしょ」 「…個人的に調べて見ます。総てそれからですね」 「一人で?」 「これでもいい情報網を持ってるんですよ」 笑ったエカーチェフは力強く頼りがいのある人に感じられた。 じーっと見つめる妙子の物問いた気な視線に気づく。 「……何?」 これとなく優しい表情。 「そういえば、本当の名前。“エカーチェフ”って違うんでしょ」 確信した物言いに、エカーチェフは敵わないなぁと苦笑いを浮かべる。 そんな前置きをしてから、真実の名前を口にする。 「エイーナ、“エイーナ=テニトラニス”だよ」
ソハコサ国の勇者
第9話
「見事に騙されてたわよ」
プイッとそっぽを向く妙子にまた彼はクスクス笑う。
「本当に本っ当に。よくそこまで性格の悪さを隠せていたわね。今の今まで性格も悪いなんて知らなかったわ」
「魔導士のエカーチェフくんって性格がいいでしょ。でも俺自身もそんなに悪いとは思わないけど……」
「周囲の人々騙してるだけで、私は十分だと思う!!」
――つまり、こういう事なのだ。
妙子はずっと彼と一緒に旅をし続けていて、気が付いてしまったのだ。
傍から見れば判らない。彼の心を読むこと以外には。
彼はずっと“魔導士エカーチェフ”を演じ続けていたのだ。おっとりしていて要領が悪い。しかし高等な《魔術》を扱うことが出来る。権力を持つ者に警戒心を与えない人物に。
彼に成り代わっていた訳ではない。彼自身がそんな人間を演じたまま、《魔導》を習っていたのだ。
要領が悪いのも、総て計算にいれての行動。彼は全部の行動を瞬時で計算し、自分とは違う別の人格としての自分を作り出していたのだ。
「妙子さんが初めてだよ、俺の演技を見破ったのは」「ただの勘よ。人間観察は慣れているもの」
日常生活。
嘘偽りの自分を演じている人はどれほど存在していることか。
人前だけ良い人をしている奴など、当たり前の生活。そんな中で過ごしていると知れずと判ってくる。
だから、聞きたくなった。
「どうして……こんなことをしてるの?」
しばらくは答えない。言葉を選んでいるのかもしれない。そんな彼が口にしたのは、
「……うーん…なりゆきかなぁ……」
「なりゆき?」
「そう……親友を助けるために〈魔導〉の勉強をしたんだけど、自分が思ったより才能があったみたいで……」
「ふーん…それは計算できなかったんだ」
クスクス笑う妙子にエカーチェフも笑みを漏らす。
「妙子さんの存在も計算外でしたね」
「どこが?」
「俺が本気を出さないと、二人とも死にそうだったとこが」
バレたのはあなたが頼りにならなかったせいですよと言外に含ませて笑うエカーチェフに、妙子は笑いを返した。
「……そうだな。妙子さんならいいか、判らないだろうから」
【つづく】
予想以上に長くなっちまった。
(以前にカットしていた所を付け加えたから)
てことで、つづく。
でも、時間差ですぐにUPしますので、
少々お待ちを~~♬