Nicotto Town


ひまわり畑を眺める一匹猫


無題

数年前、以前バイトをしていたコンビニに寄った時の話。
都心付近にある本部を出ると、夜の9時を回っていた。
10時ごろに、そのコンビニのオーナーが店にく来るので、久しぶりに会おうか等と思ったのである。

江戸川区にあるお店に着いたのは、ちょうど10時ごろ。
バックルームに私が顔を出すと、いつもの笑顔でオーナーが迎えてくれた。
しかししばらく話した後、オーナーは突然に、真顔で私にこう言った。
「Sちゃん、入院した。白血病だって。もう、持たないらしい・・・。」

私がその店でバイトをしていたのは、もう10年以上も前の話である。
その頃私は深夜のバイトで、朝になるとやってくる主婦の方とは仲が良かった。
その中の一人のS姉さんには、一人の女の子のお子さんがいた。
名前をSちゃんと言った。
Sちゃんは、重度の自閉症だった。
私がバイトをしていた頃、Sちゃんは特別な学校に通っていて、朝方良く買い物に来ていた。
おにぎりやお菓子を買いに来るSちゃんに、私は良く声をかけていた。

「Sちゃん、おはよう!今日も学校?いい天気だね!気を付けて行くんだよ!」
Sちゃんは口数は少なかったが、私が声をかけるといつも笑顔を返してくれた。
8時になり、S姉さんがシフトに入ると私の上がり時間。
上がり際、よくS姉さんと話をした。

「Sちゃん、今日も寄ってくれたよ。」
「うん、もうすぐ卒業でね、病院の清掃係の仕事決まったんだ。」
「へ~!良かったね!頑張らなきゃね!」
「うん、でもいろいろ大変なのよ。」
それからしばらくして、私のバイトの期間は終わり、私は店を離れていった。

3年前、私が久々にお店に寄ると、オーナーに一枚のチラシを貰った。
ピアノのリサイタルのチラシだった。
そのチラシの写真は、なんとSちゃんではないか!
その後、Sちゃんはピアノを始め、天才的な才能を発揮したのだ。
なんと、プロのピアノ奏者の目に留まり、数名の音楽家の協力でリサイタルデビューをすると言う。
なんでも、Sちゃんの演奏の技術は相当なものらしい。
残念ながら、私は都合で行く事は出来なかった。

後で聞いた話だが、リサイタル直前にSちゃんは体調が悪くなり、もしかすると中止になる恐れもあったとか。
それでも、共演者の皆さんの協力もあり、予定よりも短い時間だっが、何とかリサイタルは成功したという事である。
Sちゃんも、S姉さんも、嬉しかっただろうな・・・。
私はSちゃんに勇気を貰った気がした。

数日前、私がオーナーの店に寄ると、オーナーは真顔で私に言った。
「Sさん、医者から余命の宣告されたらしいよ。泣いていたよ・・・」
朝、買い物をして可愛らしい笑顔を見せてくれたSちゃん。
いろいろ大変だと言いながら、Sちゃんの就職が決まって嬉しそうだったS姉さん。
ピアノの前に座って、得意顔のSちゃんの写真。

こんな話を聞いた事がある。
困難とは、その人がそれに耐えられる能力があると、神様が見極めた人に与えられるものだ。

冗談じゃねえ。
簡単に越えられるハードルを貰って、たかがそれを飛び越えた位の人間が偉そうに言うな。
もし、それが本当だとしたら、神様はなんて残酷なんだ。
いったい一人の人にどれだけの困難を背負わせれば気が済むんだ。

私は、S姉さんにかける言葉が見付からなかった。

リサイタルからちょうど1年後・・・
Sちゃんは旅立って行きました。

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2009/03/05 08:57
KINACOさん
でもそれは紛れも無い事実です。
私も極身近な人を失いました。
そうすると、この世とあの世が身近になったような気がします。
KINACOさんは生きています。
生きているからこそ味わえる、喜びも悲しみもあります。
生きているって事は、それらを得る唯一の権利だと私は思います。
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2009/03/05 08:51
さぶ真凛さん
そうそう!Sちゃんの夢!きっと叶ったんです。
そう思いたいですね。
今はただ、Sちゃんの短い人生がそれでも充実していたって信じたいです。
彼女の人生で、私という存在が少しでも関与出来た事を喜びたい。
そしてここに書かせてもらって、少しでもSちゃんのお話を知ってもらえた事に・・・。
私は大した事は出来ませんでしたが、Sちゃんの笑顔はいつまでも忘れないでいようと思います。
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2009/03/05 08:46
くぅみん
どうしようもない、仕方の無い雨だって降るんです。
避けようの無い現実は、容赦ないですよね・・・。
受け入れなくてはならないことは、受け入れるしかないんだけど・・・
やはり私は涙を流してしまいます。
>人はその人生を選んで生まれてきたなんて 
この言葉を吐いた方の人生は、なんて薄っぺらなんだろうって・・・
生意気言ってごめん。。。
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2009/03/05 01:03
このごろ本当にわからないんだ。
本当に解らない。。。
人が死んで、私が生きてる。
そのことだけでも、なんかなにもかも信じたり出来ないんだよ。。。
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2009/03/04 23:07
もしかしたらSちゃんのたくさんの夢のひとつが
叶う時だったのかもしれないのに本当に残念です。
それでもきっといつも優しくしてくれた
猫さんのこともきっと思い浮かべてくれていたことでしょう。
いつも笑顔で接してくれることって
普通なようで普通なことではないように思います。
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2009/03/04 21:26
猫さん 何だかねぇ 本当にね・・・ですよね・・・
背負いきれない荷物 代わりに持ってもやれないしね
泣けるのですよ。
人はその人生を選んで生まれてきたなんて 
勝手に言わないでほしいですよね・・・ ちぇ   すみません。



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