創作小説「優しい雨」2
- カテゴリ:自作小説
- 2010/10/26 23:34:45
優しい雨
第2話
その日も雨が降っていた。夕刻になり雨脚も強くなった外の景色を、何をするまでもなく眺めていたのだ。
父が亡くなり柚莉花はひとりで別荘に来ていた。
父は名家出身で母との結婚を反対され駆け落ち同然で家を出たという。
今回のことで父の実家と母が遺産のことで対立し話し合いをするため、子供は邪魔だなと避難と称して一人やってきたのだ。
平日のため別荘地には人は殆どいなく、数日間を誰とも話す機会さえなく、たったひとりで過ごしていた時。
雨に降られて向かいの建物の軒下で雨宿りをしていたのが、彼だった。
深く考えることなく自然に彼の元へ足が向かっていた。
「…うちで…雨宿り……する?」
突然傘をさして現れた彼女に驚きながらも、
「ありがとう」
と、彼は笑顔を向けた。
雨は止む気配を見せず降り続いている。
二人分の夕食を作り、一緒に食事をし…すべてを降りやまない雨の所為にして過ごした。
他愛のない話題から、お互いの今の状況まで。
「何故、こんな所で雨宿りをしていたの?」
柚莉花が問いかける。
「家を飛び出してきた」
やけにさっぱりとした口調で彼は話し出す。
「劇団に入ってたんだけど、親が多額の寄付をしてたんだ。そこでいくら主役を演じても自分の実力が認められなくて。……親に黙って劇団を退団した。高校も実家を出て推薦された学校に行くフリしながら、別の高校に入学してたんだけど、それがバレて呼び出し」
苦笑しながら話すも、智博の瞳に迷いはなかった。
自分の夢を追うにも親が敷いたレールを歩まそうとする。
望み以上のことまで手を回そうとする両親。そこから外れると『ここまでしてやっているのに』と押し付けがましく言ってくる。
だからもう放ってくれ、と。
「これでもう、さっぱりした。今は高校で演劇部を創ってる」
「そうなんだ…」
「柚莉花は? なんでこんな別荘にひとりで?」
「私は……」
まっすぐな智博の瞳から視線をそらして柚莉花は口にする。
「……私って、必要ないのかなぁ……」
「父が亡くなって、母と祖母が父の遺産で話し合ってる。私の待遇のことも……」
ずっと抱えていた不安。
考えたら現実になりそうで知らない振りをしていた。
もともと体の弱かった父に代わり、母の方が仕事に精を出し独立して会社を興した。必然的に父と時間を過ごすことの多かった柚莉花。今まで当たり前のように側にいた存在がいなくなる……想像していたよりも心に暗い不安の影が落ちた。
仕事に生きてきた母にとって、私は邪魔な存在ではないのか?
かつて家族と過ごしてきたこの場所で一人、楽しい思い出は現実の辛さを確認するだけで、未来の不安を拡大させていった。
「……私って、必要のない人間かなぁ……」
「ナニ言ってんの?」
呟いて瞳を伏せ、再び口にした言葉に智博のあきれた声が上から降ってきた。
「柚莉花がいなかったら、俺は風邪ひいて死んでたかもしんないんだよ」
いつの間にか向かいのソファから目前にいた智博を見上げて、視線が外せなくなった。
まっすぐな瞳に捕われたように。
彼の手が頬に触れても。
肌に触れる彼の指が、優しく心地よかった。
明け方まで振っていた雨も止み、鳥のさえずる声で目が覚めた。静かな部屋はいつもと変わりないのに少し違って見えた。
物音とおいしそうな匂いが漂ってくる。
柚莉花は簡単に身支度を整えリビングの扉に手をかけた時、中から話し声が聞こえた。
「……もしもし…アオイ? 俺。今日、帰るから」
親密そうな飾らない口調。
その言葉から携帯電話で誰かと話をしているのだと判った。
『……アオイって…誰……?』
連絡を入れる人物が、彼には存在するのだと思うと何だか淋しい思いに捕らわれた。
いつの間にか側にいて欲しいと願っていた自分がいることに気付いたが、その想いは心の奥底に深く沈めこんだ。
「連絡先、教えてよ」
宿のお礼とばかり智博が作った朝食を食べ終え、別荘を出るときに彼が口にした言葉。
「今度どこかで逢えたら、ね」
ちょっと強がりな笑顔で応え返した。
期待したくなかった。
「よーし、絶対、見つけてやるからな」
そう宣言した彼を見送ったのが最後のはず、だった。
【続く】
第2話をお届けでーすww
一晩があっち系の一晩ではなくて良かったでs(
晴れると一つの希望
(^^)
この先どうなるのか楽しみです^^
あっと驚く大どんでん返しとかもあるのでしょうか?
楽しみにしてます
しかも、一晩かぎり。
でも、彼は気がつかないのか
気づかないフリをしているのか
それとも
何かを たくらんでいるのかしら?w