『Not guilty but…』(1)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/03 04:26:52
『Not guilty but not innocent』
目が覚めたら隣に知らない異性がいた、というのは、フィクションではよくある始まりだ。
だが、それが事切れてだいぶ経っている死体、というのは……これもありがちかもしれない。ミステリだったら。
こういう場合、人はどういう反応をするものだろう?
きゃあ、と叫んでその場を逃げ出す?
むやみに逃げだすと、後々痛くもない腹を探られる。どうせ逃げるのなら、自分の痕跡を完璧に消し去る事が出来るかどうか確認した後が良かろう。
…という訳で改めて周囲を確認する。どうやらここは『そういう用途』の施設らしい、と推測。何しろ今いるベッドの上から鏡張りのバスルームが丸見えだからだ。
バスルームとこちらとを隔てる壁には、びっしりと水滴が付いている。まだ湯槽に湯が張ったままなのだろう。
不意に、自分が、この見知らぬ死体に抱かれたのだ、という事実に思い当たって肌が粟立つ。
ベッドを滑り降り、バスルームに駆け込む。
ひとしきり吐いた後、温度調整もしないまま、全開にしたシャワーの下に立つ。
俯いて熱い湯が頭の先から足元へ伝い落ちるのをぼんやりと待つ。湯で流しただけでは飽き足らず、備えつけのシャンプーとボディソープで、全身をくまなく洗う。髪を洗っていて、抜けた髪が排水溝に吸い込まれるのを見て、逃げるのは諦めた方がいい、と思い直す。どうせ手が触れた箇所を全部拭きとれる訳もないのだし。それに、死体のどこかに、自分のつけた痕跡(唾液とか、歯型とか)がないとも限らない。
バスルームを出て、まだ未使用と思しきバスローブを羽織る。洗い髪からはまだ滴が滴るが、バスタオルとフェイスタオルはどちらも使用済みなようなのでバスローブの背中に垂れるままにしておく。
辺りを見回して、自分の荷物を探す。服やアクセサリはベッドの周囲に散らばっているのですぐ目についたが、バッグの類がない。部屋の入口の方まで探しに行き、ようやく見つけた。中を探ってみたが、目的の物がない。数時間前の自分に対し悪態を吐く。
ベッドのところまで戻り、サイドテーブルの上に載っている、什器の使い方を説明した、薄くラミネートされたリーフレットに目を通す。
《外線の掛け方》は……ない。というか、外へ連絡したければ、フロントに相手先の番号を伝えなければならない。
どういうシステムだ!このプッシュボタンは、ただの飾りか!
こんなところを選んだ死体の男と、それを承知した数時間前の自分に心の中で蹴りを入れながら毒づく。
なんのリアクションも返って来ない相手に毒を吐いても埒は開かない。さっきのリーフレットによれば、帰る時にはフロントにコールしなければ部屋から出られないらしい。一人だけ先に帰る場合でも。火事とか地震の時はどうするんだろう?
いずれにせよ、フロントには知らせないといけないらしい。諦めてフロントを呼び出す。……こういう場合、取り乱していた方が自然に聞こえるものなのだろうか?
「あの…すみませんが、救急車を呼んでいただけませんか?」
回線の向こうから、どうしましたか?という眠そうな声が返ってくる。もしかしたら仮眠でも取っていたのか。
「えーと…連れの者、でいいんでしょうか?とにかく、一緒にいる人の様子がおかしいので。…どう、って…えーと、なんか息してないみたいで」
フロント係の眠気も吹き飛んだようだ。
「ええ。…はい、目が覚めたら、顔が土気色で。…わかりません。とにかく早く。…どうも。あ、それから、携帯電話と財布の落し物、ありませんでした?昨夜。…はい。……そうですか。じゃあすみませんが、外へ一本、電話をかけたいんですが。…お願いします。えーと…」
暗記している番号を告げ、繋がるのを待つ。コール二十回で相手が出た。留守電設定にはしてないらしい。
夢枕獏の 「荒野に獣慟哭す」 の冒頭シーンを思い出しちゃいました。
…って言っても、1巻しか読んだことないんですけど。www
あと、映画 「ソウ」シリーズも思い出します。
面白いです!
この話、できれば縦書きでじっくり読みたいですねぇ。
横書きの小説はいまだに慣れないもんで…。^^;
一気読みしようと思ってたんですけど、勿体ないんでじっくり読みます♪
おおおおお~~~~~ 続きがもうあるのでじっくり読ませていただきます。
始めっからドキドキの展開だね。
徹夜明け一番から読み入ってしまいました
なんだかとっても続きが気になります・・・・・・
楽しみにしてまた覗きに来ますね!
ありがとう