Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「封夢宮」(2/10)

「封夢宮~龍の眠る宮~



第2話

 「炎朱ー! 聞いて聞いて」
 
元気に声を張り上げてやってきたのは幼なじみでもある水愛というもうすぐ十八になろうかという少女だった。
 部屋に帰って来るなり飛び込んで来たということは、どこかで見張っていたのだろうか。
「どうした? そんな格好のままで……」
 ビラビラと何枚もの薄布を折り重ねた格好、普段は神殿でしか着ない水龍の巫女の衣装のままで彼女は走り寄って来た。
 炎朱の腕をがっしりと掴み、まずは息を整える。
「あのね、あのね」
「うん」
「今回の祭典で巫女の役、終わりなの」
「……へぇ…そうなんだ……」
 笑顔でそう報告する彼女に炎朱はちょっと驚きを隠さないで聞く。
「それがそんなに嬉しいのか?」
 ここ数年間、ずっと水愛が水龍の巫女、つまり毎年行われる湖に棲むという水龍の鎮祭で、祭壇に上がって祈りを捧げる役をしているのだ。
 巫女の役は神聖なものであるから、選ばれることは名誉であり難しい。
 たくさんの娘が夢見ている巫女の役にならなくなるのが、どうしてそんなに嬉しいのだろう、と疑問に思うのが普通である。
「だって、だって。やっと普通の女の子に戻れるんだもの」
 水龍の巫女になるべく生まれた娘だと囁かれて
いる水愛。
 炎朱も祭典で着飾った彼女の姿を見る事は……年一回の楽しみでもあるのだ。
「戻るといい事でもあるのか?」
「だって普通に戻るということは、結婚できるんだもの」
「あっ……」
 大きな青い瞳が真っすぐに彼の瞳を捕らえる。
 言葉の意味に気づいた炎朱は顔を赤らめて視線をはずした。
「炎朱、約束だからね」
 彼の性格を知った上で明るく言う。
 それは炎朱がためらっているのを知っているからだ。
「私、炎朱の赤い瞳、好きよ」
 青い瞳が常である村にとって、よそ者の証しである赤い瞳。
 しかしそれだけではなく、いつも布で覆って隠している物心ついた時から見えない左目。
 何故、いつからこんな瞳なのか炎朱本自身にも記憶がない。
「こっちの淡い瞳も好きよ」
 楽しそうに水愛が炎朱の頭から左目にかけて巻いてある布を取り外す。
 彼も慣れているためか抵抗はしない。
布の下からは想像するような赤い瞳は現れず、変わって青白いガラス玉のようなモノが瞼の奥から現れる。
 笑顔で言う水愛の言葉に幾度となく、助けられた。
 ここにいてもいいのだと、安心できるものがある。
「水愛は珍しいものが好きだからな……」
 笑いを浮かべそうっと伸ばし彼女を抱き寄せる腕に従って、身を預けた水愛は大きな瞳を閉じる。
 優しいくちづけ。
 何度重ねても心が暖かくなる感覚はなくならない。
 大切な少女。
 ずっと守っていきたい……。
 ―
コンコン。
 開け放たれた扉をわざわざノックする音に気づいて、ようやく人が来たことを知った炎朱と水愛は抱き合っていた腕を解いた。
「……水愛、そんな格好のまま、出歩かないで下さい。神殿の信用にかかわります」
 落ち着いた声の主。
「判ってるわよ。炎朱、約束を忘れないでね」
「…………」
 戸口に立つ彼の横を通り抜け、パタパタ走って行く。
バツが悪そうに横を向いた炎朱と、彼より五才年上で二十六歳の彼、洸水が後に残されてしまった。
 洸水は若いにもかかわらず、神官として神殿に仕えている人物だ。
 炎朱もよく知っている、頼れる兄みたいな関係だった。
「……見た、よな」
「なんの事です?」
 照れた表情をする炎朱にわざととぼけてみせる。
 二人の関係はもちろん知っているはずなので驚けとまでは言わないが、何事もなかったような顔をされるのも、だいぶん気まずいものかある。
 少しの沈黙の後、口を開いたのは洸水だった。
 右手の人差し指を口元に当てて、含み笑いと思える笑みを浮かべる。
「明日は祭典ですので、彼女を刺激するようなイロイロなことは控えて下さいね」
「な、何だよ。そのイロイロってのは!」
 思わずがなりつけた言葉は彼のフフという笑い声ひとつ残して消え去ってしまった。


【つづく】

てことで、本編開始でございますww
よろしくお願いします。

アバター
2010/11/08 21:32
こんばんは。
なんか、ドキドキしてきましたー!
この先、二人の間に何が起きるのでしょうか?!
続き楽しみにしています♪
アバター
2010/11/08 17:14
ほほう、2人はもう出来ててしかも婚約者なんですかね(*´Д`*)ハァハァ
炎朱と洸水の言う「イロイロ」とというのは...(ry
アバター
2010/11/08 01:56
www
しゅーひさん…私の逃げ方をよく知っていらっしゃる・・・><
でもこの話は番外編はありませんからーーー 大丈夫ですb
…違う逃げ方はかましましておりますがww ぷぷぷww
アバター
2010/11/08 01:44
炎朱の過去も
これから明らかになっていくんでしょう。

だめよ?
裏設定で逃げないでよ~?w




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