Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「封夢宮」(3/10)

「封夢宮~龍の眠る宮~

 
第3話

 祭典か始まった。
 
湖の浅瀬に作り出された祭壇の前に、村人全員か集まり出す。
 
澄んだ色彩の湖水は、ゆらゆらといつものように波打っている。
 
皆か見守る中、祭壇への道を水龍の巫女が渡っていく。
 
いつも無邪気な水愛が、この時とばかりに聖女へと変わる。
美しい一枚の絵のように、なくてはならぬ存在となって湖上の祭壇に立つ。
 
毎年、選ばれるのを納得してしまうモノが彼女には備わっていた。
 
『今年が、最後だな……』
 
これから見ることのない巫女の姿をしっかりと見ておこうと見つめる炎朱。
 
そして、ふと視界の隅に映った神官たちの中に、洸水の姿かなかった。
 
「?」
 
不思議に感じながらも、祭典は続いている。
 
いつしかその事も忘れ、湖に水龍ヘの祈りを捧げる巫欠の美しい姿に呑まれていった。
 
――ポタッ
 頬に雫が落ちて、フッと我に返った。他の者は食い入るように祭壇を見つめている。
 
「雨?」
 天を仰ぎ見た炎朱は、いつのまにか空がどんよりと曇っているのを見て驚く。
 
こんなになるまでどうして気づかなかったのだろうと思える程、黒い雨雲が空に浮かんでいた。
 ポタポタポタ 
降ってきた雨に気づいた者か異様さを感じ取って声を上げる。そのざわめきがどんどん大きくなった。
 
一番初めに気づいたのは、祭壇にいた巫女、水愛だった。
 
湖面に黒い影が浮かび上がり、はっきりした形になるまでそう時間はかからなかった。
 長く大きな影。
 
村人が騒ぎだしたのもこの時。
 天候が変化し、皆、正体不明のものに何とも言えない緊張感に支配され不安が募って行く。
 
黒雲が雷光を放ったと同時に湖から影が湖上に現れた。
 祭壇の右から左へ、飛び越えるよう飛んだその影。炎朱はその一瞬で、それが何なのか判った。
 水龍。
 
もはや伝説となり、実在していると村の誰も思っていなかった水龍。
 
「水愛!」
 
混乱した民衆の中、彼女に駆け寄ろうとしても皆が邪魔で行くことができない。
 
「炎朱!」
 
その叫びが彼女の最後の言葉。
 
水龍が姿を消した時には、どこを探しても水愛は見当たらなかった。
 
突然の出来事に恐怖し、逃げ惑う村人たちは散り散りに、湖から去って行く。
 本格的に振り出した豪雨の中、爪が皮膚を傷つけるのも構わないで手を強く握り締めたまま、ただ立ち尽くすしか、今の炎朱には何も出来なかった。


        

 何かただ事ではない騒ぎを感じて洸水は目が覚めた。
 
後頭部がまだやけに痛い。殴られた所が痛みを訴えている。
 祭典の準備をしていたのを思い出す。
 

「これで全部ですか?」
「はい」
 
一室に集められた祭典に使われる道具の最終チェックを洸水はしていた。数人の巫女か慌ただしく廊下を歩いて行く。
 
備品の書き出された数枚の書類を見ながら、一品一品事細かに調べていく。年に一度の祭りなので入念にチェックされるのだ。
 
もう日が暮れてから数刻は経っている。村の明かりも消え、日付が変わる頃、ようやく準備か終わった洸水は報告をしに、人気のなくなった神殿の奥深くにある部屋へと急ぐ。
 
扉をノックしようとした時、中から怒鳴り声か聞こえてきた。
 何か立て込んでいるようだとためらってしまったため、次のタイミングがつかめない。
 
「それじゃあ、水龍の巫女を生け贄にせよと申すのか!?
 
「他に何かできる。村のためだ。幸いにも水愛は家族を持たない孤児だ。巫女としても申し分ない。希代の巫女として水龍に捜われたとしても、皆は納得するだろう」
 
「しかし」
 
「水龍が本当に存在するかしないかさえ判らん。現れても私達の責任にはならんじゃないか」
 ドアの向こうから聞こえてくる声。
 言い合っているのは声からして村長と神殿の主官だ。
 
『水龍が現れる?』
 とんでもないことを聞いてしまった。
 
『水愛が生け贄!?
 
 ―ガチャッ
 
突然ドアが開く。村長か帰ろうとしたためだ。
 茫然と戸口に立っていたため、彼の行く手を遮る格好になってしまった。
 
「な、なんだ貴様は!!
 
「洸水……」
 
慌てふためいて叫んだ村長の向こうから主神官の困ったような声。
 
報告しに参りましたと笑顔で、今ここに着きましたとばかりに言えば何もなかったのかもしれないか、笑うことかできない程、彼の表情は凍っていた。
 
「……水愛を生け贄にするとは、どういうことです?」
 「…………」
 
「貴様など、知る必要はない!」
 頭ごなしに怒鳴ってくる村長。
 
「水愛に伝えます」
 
「村の存続にかかわることなんだ」
 
叫び声とともに頭部に鋭い痛みが走った。
 クラッと目眩がして視界が白く見えなくなる。
 
「村長」
 
「殺しはしない。明日の祭典のため、閉じ込めておけば大丈夫だ」
 主神官と村長の話し声をうっすらと聞きながら、洸水は冷たい大理石の床へと倒れ込んだのを覚えていた。
 
『痛いということは、まだそれ程、時か経っていないのだろうか……』
 
遠くから聞こえるのは人の声と……雨音?激しく地に叩きつける水音。
 
『嵐か……』
 
そう思ってはっと気づく。
 
「まさか…水龍が……」


 【続く】

アバター
2010/11/09 17:15
みあたんを生贄に...だと!?
何故生贄にしなければ...
そもそも水龍は現れてはいけないんだろうか(´・ω・`)
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2010/11/09 11:32
やっと、読み方わかりました^^
さて、再読しなくてわ…
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2010/11/09 02:27
あ、また名前の読み方忘れてた><
炎朱 = エンシュ
水愛 = ミア
洸水 = コウナ ですww

アバター
2010/11/09 01:36
うう
やはり、水愛に被害がきちゃったー
水龍とは、なんなんだろう。


うーん
UPの先を越されてる・・・w




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