創作小説「封夢宮」(8/10)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/14 00:56:30
「封夢宮~龍の眠る宮~」
第8話
「焔、水龍の瑞唖に会いに行くのか?」
いつもの姿から人型へと変形して旅支度を整えようとしている彼に声をかけた。
前々から体調が良くなったら約束を果たすためにと聞いていたのだが、どうしても今の彼を長旅、もしくは力を消耗させる訳にはいかなかった。それに一人でここに残って、この場所を今までのように守りきれるかどうかも判らない。昔のように火が吹き上がり地獄の劫火と化した山に戻してはいけないのだ。そうするには自分はまだ《力》が足りないのを知っている。
だから。
「俺が変わりに行って来る!」
「お前がか?」
「うん。焔がここを離れたらまたやばくなるんだろ。身体もまだ癒えてないし、な」
うーんと考え込んだ焔に念を押すように語調を強める。
「大丈夫だよ。これでも火龍のはしくれなんだから」
元気に言う焔種に焔は折れる。
言い出したら引かないのは分かり過ぎる程、判っているのだ。
彼は自分だから。
そろそろ彼の実力の程を知るのも、いいかもしれない。立派に自分の後継者になれるのかどうかを見極めなければならない。
「判った、焔種に行かそう」
「やったーっ!」
楽しそうに歓声を上げる焔種を見て焔も微笑む。しかし、
「条件はあるからな、焔種」
ちょっと真剣な口調で言った焔に、笑顔をしまい込んで向き直った。
「火龍の《力》は使わないこと。普通の子供として旅をしてこい。お前はまだ人間がどのように暮らしてるか知らないんだから。そうだな、下の村から巫女を一人借りて同行させよう」
「一緒にか?」
「そうだ。子供一人だと反って目立つからな」
数日後、龍化した巨大な焔の背中に乗せてもらい麓の村まで送ってもらった。
左の瞳は真紅から白濁した色へ変化している。自ら望んで龍珠を嵌め込んでもらった。
大切なもの。
絶対に無くしたりはしないようにと。
◆ ◆ ◆
「事故だったんだ」
炎朱―もとい焔種が話す。
「水龍の村、目前にして大雨が降り続いた。それのせいで巫女は熱病で伏せ、そのまま死んでしまったんだ」
洸水は焔種の母だと思っていた女の人を思い出した。熱病で動けなかった彼女を村に招き入れ、その甲斐なく息を引き取った様を側で見ていた。
彼女はずっと焔種を呼んでいた。
言わなければならないことがある、と。
「焔から聞いていた俺の封印を解く言葉を、俺に言うことができなかったから、ずっと普通の人として暮らしていたんだよ」
まるで悔やんでいるかのような言葉と表情。
そんな彼を見る洸水の視線に気づいて焔種は笑みを浮かべた。
「俺にとっては楽しかったし、よかったと思うよ」
普通では体験することのない貴重な時間だったから。共に生きることは出来ても、共に生活することは出来ないと解っているからこその大切さ。
「でも俺のせいで水龍は目覚めてしまった。絶対、これ以上村に被害を及ぼさないように俺が静めてみせる」
瞳に宿る意志。
先日まで見られなかったものだ。
彼女―水愛を必要としていた頃の彼とは全く違う。本当の自分を取り戻したからだろうけど……だったら今も彼女を必要としているのだろうか。
「ギャアァー」
突然火龍が鳴き声を上げた。
その声にはっと火龍に乗って雨の中、湖の神殿があるという上空に向かっているということを思い出した。
特殊な空間が造られているらしく、雨水が全く当たらなかったので忘れていた。
水龍のような長い尾を持つものでなく、大きな力強い翼を持った火龍。
「神殿の真上に来たから、潜るってさ」
焔種が彼の声を訳したように言う。
急降下の浮遊感の後、ザーンと景色と圧力が変化した。
上空での不思議な空間はまだ続いているらしく苦しくない。
水がまるで案内をしているように、どんどん水流に乗ってすぐに神殿の正面にたどり着いた。
底の床石に龍の背から降り立ったと同時に火龍の姿は消え失せ、青年の姿になって焔種の横に現れた。
無言で洸水と焔を視線で促し、神殿内へと足を踏み入れた焔種。
先日と変わらない場所に水龍は居た。
水愛を護るようにして瞳を閉じていたが、来客に気づき頭を持ち上げてきた。
初めて見る水龍に洸水は言葉がでない。
緊張感が流れた中、気軽に声をかけたのは焔だった。
「瑞唖、久しぶりだな」
水龍の側まで歩んで行き、そっと手を差し伸べた。数秒の視線のやり取りで彼のことが判ったのか、水龍の姿がかき消えた。
【つづく】
いやー
二人はどうなるのーーーーw
あと2話で終わっちゃうなあ(´・ω・`)