『訪問者ぶたぶた』
- カテゴリ:小説/詩
- 2009/03/18 23:12:24
『訪問者ぶたぶた』 矢崎存美 光文社文庫
出版社をまたいで出ている〈ぶたぶた〉シリーズ最新作です。
このシリーズのレギュラー、山崎さんは穏やかな中年男性です。
常識があって心優しく、気遣いのある大人。
職歴豊富さからは苦労人ゆえでしょうか? そしてとっても料理上手。
綺麗な奥さんとふたりの娘さんがいます。
お子さんたちは奥さんの連れ子さんのようですけど、お父さんになついています。
普通じゃないのはこの山崎さん、バレーボール大のピンクのブタの縫いぐるみ。
タイトルロールの山崎ぷたぷたさん、その人です。
疲れているとき、苛立っているとき、ぶたぶたさんと出会った人たちが、物事を考え直したり、素直になったりして自分を取り戻す。
いつも通り、ホッとするお話です。
だけどちょっと安定しすぎかなぁ、と思わないでもありません。
本当はこのシリーズのほとんどの話で、ぶたぶたさんが縫いぐるみでなくてもいいんです。
行動や考えを見直したり、気持ちを切り替える話が多いから。
ふつうに周囲の人の助言や、その行動見て、でいいじゃん。
でも人はなかなか素直になれないから、物語にはぶたぶたさんが出てくる。
もこもこ喋るブタの縫いぐるみに肩肘張るのは難しいから。
ある意味、ぶたぶたさんって「飛び道具」なんです。
その存在とかわいらしさで、同様に穏やかで常識的な「人」では無理なことを可能にしてしまう。
このシリーズの成功の原因は、ぶたぶたさんの存在、そのものでしょう。
けれどぶたぶたさんの存在に頼ると、話は同じパターンになりやすくなります。
それに、縫いぐるみだから、という理由で人々がぶたぶたさんを信じやすい、受け入れやすい状況は、ある意味危険でもあります。
そのあたりの危うさは作者も承知しているようで、『ぶたぶたのいる場所』では、ぶたぶたさんが作中の劇『オセロー』で、かわいらしさで周囲を欺くイアーゴーを演じています。
また、現実的でありえないぶたぶたさん一家が、現実で暮らしていくのに必要なこと、についての話である『ぶたぶた日記(ダイアリー)』のような、定型から外れてジーンとくる話も書かれています。
もしこれからも続くなら、ほのぼのとして暖かいところはかわらず、でも安易に定型化した「癒し」にはまりこまないでくれたらな、と思います。