あるあるある! 『配達あかずきん』
- カテゴリ:小説/詩
- 2009/04/05 00:45:43
『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』大崎梢/創元推理文庫 を読んだ。
書店まわりの謎を店員とアルバイトが解いていく連作短編集だ。
ミステリ読みではない人間なので推理小説としての出来は正直わからない。
たが、冒頭を読んで苦笑した。
あるあるある! いるよ、こういうお客さま。
欲しい本が見つからない、と訊くけど、書名も著者も出版社も憶えていない。
だけならいいけど、間違って憶えている。
これもまだ仕方がないかも。
だけど店員が正解だろう書名を提示しても、自信を持って否定する。
……あれは、何故だろう?
「カルチャーセンターのお教室で必要なんだけど、コウヤセイはどこ?」
「コウヤ……泉鏡花の『高野聖』ですね?」
「違うわよ! コウヤセイよ! コウヤセイ!」
――という場面に遭遇したことがある。
あのおばさまは無事に本を手に入れられただろうか?
出先で似たようなケースに行き合って、困っている店員さんを見かねて、正解の本(店員さんがあげた本、どう考えてもそれ)をお客さんに「これですよ」と押しつけて逃げたこともある。
好きが昂じて書店でアルバイトしていたので(無論他店で、です)、店員さんの困惑は他人事ではなかったのだ。
英語まるで駄目な身で、異国人のお客さんをペーパーパック棚に誘導する方がまだマシだ。
そんなこんなで何だかなつかしい、書店員でなくとも本好きなら「あるある」と言いたくなることが多々ある短編集だ。
ただ、ミステリ好きには多物足りなくはないかなぁ?
手がかりが「記憶」(推理時に口にされるまで読者に提示されていない)という話も多いし。
一話目の「パンダは囁く」、ミステリを読まない人でも、ご老人の言葉の「解き方」はわかるのじゃないだろうか?
とりあえず、見当はついた。
さすがにお探し本がどれかまではわからなかったけど(だって、あれは……)。
二話目と四話目はロマンチックで甘やかにすぎないかい? と思うものの、そういう話こそ大好きだ! って人もいるか。
特に四話目、状況や相手のことを考えて、ぴったりの本を勧めることができる人なんて、白馬の王子様みたいなもので(そのありえなさも含めてw)、トキメキたくもなる。
四話目のお勧め本、知ってる率は二勝三敗(『宙の旅』はチラッと見かけたことがある、同じ著者の『宙の名前』の表紙を思い浮かべたので、二勝二敗一分け扱いにして欲しいのが本音だがw)知ってる二冊は我が家のどこかに埋まっている。
その手許にある一冊、『夏への扉』は確かにオールタイムベスト級のSFだけど、ネット上で「女の子に薦めてはいけない一冊」認定されていた。
言われてみれば、理解できなくもない。
いいのかいな、と思いもするが、そこは惹きあうものがあったのだろう。
(そういう自分自身、入院中のねこ好きの方へのお見舞いに『夏への扉』と須藤真澄の『ゆず』を差し入れたことがあるのだがw)
本好きの共感を誘う心優しい作品集で、こう書いて反応してしまう人にはお勧め。
ただ、書店の厳しい現状への言及がすくないのが残念だった。
高い原価率。配本の偏り。新古本書店の躍進。ネット書店等流通の変化。
ネット上で書店員さんの文章から見るに、給与は高いとは言えず、仕事は煩雑で憶えることが多い上、重労働も少なくない(腰を痛める人は多い)。
学生バイトだった時も他の店員系より時給が低かった。
それでも、そんな中ででも本の流通に携わること、そこにあるものが見てみたかった。
行きつけだった書店がすこし前に閉店してしまった。
ネット書店等って策もありはするけど、直接本に出会える場所はなくなって欲しくない。
がんばれ、本屋さん!
ありますよね、大げさに言えば運命の出会い、みたいなことが。
それがなければ絶対に買うことがなかった一冊に『氷の海のガレオン』があります。
少部数のハードカバー、すぐに絶版、幾度も書評誌にとりあげられ、最近やっと文庫で再刊しました。
本当にフッと手にとってなければ、存在さえ知らなかったと思います。
山鳥さん
洞察力があるほうじゃないので、ツルッと楽しく読んでしまっていました。
書店の状況は限界に近いような気がします。
いわゆる「街の本屋さん」は壊滅に近く、残っているのはチェーン系、それも資本の小さいところから耐えきれなくなっているようです。
しんどい面に触れていないと、この店には危機感がないのだろうかとかえって気になります。
気持ちのいい店だけど、成風堂書店、閉店するのじゃないかとヒンヤリしました。
フィクションなんですけど、ね。
ながつきさん
コウヤセイ、多いんですかね? 店員さん、若い女性でした。
「カルチャーセンター」って言葉と、日本文学の棚の近くだったからでしょうか?
タイトルを見るだけで楽しいですね。「パンダが囁く」がとくにツボでした。
コウヤセイから高野聖とすぐに出た店員さん、ナイスです。
正論で、ズバッと切り裂くような鋭い切れ味を秘めていて、
読んでいてイタイ話でした。
若くて、何が何でも持論が正しいと思いながら生きていた時代なら、OKだったんですが
歳と共に、正論だけでは生きていくのが難しいと感じる身には、イタイ話しだったんですよね
本屋が大変だからこそ、大変な部分をみせずに、
魅力をupしていって欲しいと素人は思ってしまいます。
知らないからこその厳しい意見になってしまうのでしょうが・・・
知っている書店が閉店していくのはさびしいですし、
本は、出来るだけ直接手にとって選びたいと思うけれど・・・
やっぱり、実物を見ないと、判断できないことがたくさんあります。