【『侵されざる者(ダイアモンド)』】(承前-6)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/04/20 11:45:24
「協力者」は会社の内外に五十人ほどが予定されていた。
そのうちの数人は、このプロジェクトで初めて会社にかかわる人間で、年齢しか明らかにされていなかった。もしかしたら、よく探せばもう少し詳しいデータがあったかもしれないが、判断に役立つ情報があるかどうかわからないので、カードには落とさなかった。
社内の人間のうち何人かは、かつて一緒に仕事(というか、「お手伝い」)をしたことがある人間で、そのほかにも名前だけ知っている人や、顔見知りの人物もかなりいた。皆年齢が《姫》と同じくらいで、子どもがいないことが共通していた。
プロジェクトのメンバーが二十人ほど(うち、専任は「現在三名」と記されている)であるのに対し、協力者が多すぎるような気がするのは……あくまで「予定」だから、だろう。
治療の手法として、遺伝子治療がまず予定されているのが、少し奇妙だったが、何としても彼女の血筋を引く子を作りたいのであれば――彼女の遺伝子に異常があって、そのせいで子ができない、というのであれば――それもありうる、のだろうか。
そして、「治療」に使う「運び屋」は、人間にしか感染しない代物を使うことになっていた。
「パンドラ」という、可愛らしくも禍々しいコードネームを付けられた「運び屋」は、もとをただせば、かつて世界中を大混乱に陥れたウィルスだった。
生殖細胞にまで潜り込み、数か月から数十年にわたって宿主の遺伝子のふりをする「パンドラ」は、ある意味ではこの種の治療にはふさわしいかもしれない。
そして「協力者」は《姫》の治療に先立って、「パンドラ」を試すことになっている。
つまり、「協力」の内容というのは、マウスの代わりということか。…全員が、というわけではないらしいが。
ちょっとした、とは言い切れないリスクではなかろうか。自分の遺伝子を、ウィルス汚染に会えてさらす、というのは。
…だが、その「遺伝子」がもともと壊れていたら?
『壊れたところを修復できるかもしれません。研究段階なので確約はできませんが。協力してくれれば、成功する、しないにかかわらずお礼を差し上げます』
治験とはおおむねそういうものだが……あえてその言葉を使わない、ということは、「怪しげな研究」であるせいか。
そして彼女は、その「怪しげな研究」に協力する、という決断をした。