刷り込まれたヒナ
- カテゴリ:人生
- 2011/05/19 22:47:05
僕が子供の頃だから、三十年強昔、NHK教育テレビで見た実験。
鳥は、卵から孵化し、一番最初に、近くで動くものを見ると、それを「親」だと信じる。
この性質を「刷り込み」と言う。
もし、見たものが、親以外であっても、それを親だと信じてしまう。
ニワトリを使った実験。
孵化が間近の卵の近くに、動くおもちゃを置いておくと、孵ったヒナは、おもちゃを親だと信じる。
そして、エサを与えてくれるでもなく、ただ動いているおもちゃの後を、ヒナは追いかけ、歩き回る。
今思えば、ひどい実験だ。
エサなどの世話は、実験をしている人間がするだろうが、はたして、ヒナはニワトリとして成長できるのだろうか。
今ほど「行動学」「生態学」など知られていない時代である。
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僕が思うのは、ヒナの気持ち。
いくら刷り込みだからといって、違和感を感じないはずはない。
鳥が、同じ巣で産まれた兄弟を見たり、偶然近くで動いたものを見ても、それを親と信じてしまうはずがないのは、自然界を見れば明らかだ。
ある程度の時間、ものを見て、これが親だと実感を増やしていくはずなのだ。
そして、もし、ヒナが「親を信じられなくなった」とき、何を感じるのか。
孤独だろうか。
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人間も、程度の違いがあるとしても、本質は同じではないか。
小さな頃から近くにいて、「親」ということになっているから、親だと思っている。
兄弟だということになっているから、兄弟だと思う。
もっと後天的な学習もそうだ。
子供の頃に、大人から「親は大切にしよう」と言われるから、それが「人としてあるべき姿」と考える。
「家族の絆」と言われるから、それが幸せの条件かと思い込む。
でも、それらのことは、真実だろうか?
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幼い頃の美優さんは、何を見たのか。
上原美優さんにとって、親はどんな存在だったか。
上原美優さんの、見ず知らずの兄弟は、兄弟だったのか。
美優さんの日常が、学校の友達から見ると、奇異で、非日常に見える。
そんな友達の中にいて、友達が友達であったのか。
美優さんの中で、世間の常識である、親の大切さや、家族の絆は、どんなふうに感じられたのだろうか。
本当のことは、本人にもわからないのだと思う。
ただ、いつも違和感を感じただろうと、僕は思う。
拭いきれない違和感を感じながら、美優さんは、子供なりに精一杯意地を張って生きてきたのだと思う。
世間の常識とは違う家族を見て、孤立するような感覚を覚えながら、戦うしかなかったのだと思う。
もちろん、上原美優さんにとって本物の親であるし、兄弟である。
しかし、刷り込まれたヒナのように、世間の常識と、目の前の日常の乖離、そこから産まれる違和感と疑問は、深刻なものだったと思う。
それで、傷つかないはずがない。
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僕たちがテレビを通してみた上原美優さんは、大人になるかならないか、そんな年頃だった。
僕は、上原美優さんが、悩みながらも成長して、親を好きでいられて、人を好きでいられて、愛を持ち続けたことを、立派だと思う。
自身が抱える孤独感を、愛情に変えて周りに振りまく。
自分が悲しかったら、周りの人たちが悲しまないように、明るさを分けてあげる。
世の中には、
「悲しみを知る人ほど、優しくなれる」
「苦しみを経験するほど、強くなれる」
そんな言葉がある。
美優さんは、ずっと、たくさんの人を明るくしてくれていた。
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でも、
美優さんの苦しみを、誰も救ってあげられなかった。
今まで、明るく楽しい上原美優でいられたのは、美優さんがそれだけ強かった証拠だと思う。
それでも生きていられないくらい苦しくなってしまった。
そんな美優さんを、どうしたら救えたのだろうか。
(世間では、仕事をしろと言う)
生きるのが辛いときに、ゆっくり休んではいけないのだろうか。
(世間は、自分の行動に責任を持つのが大人だと言う)
大人になったら、甘えてはいけないのだろうか。
(逃げるのは卑怯だと言う者がいる)
逃げ出してはいけないのだろうか。
僕たちが、美優さんから明るさを分けてもらったくらい、
僕たちから、美優さんに幸せを分けてあげるには、
どうしたら良かったのだろう。
それは問題だと、自分で思う。
美優さんと同じように悩んでいる人に向かって、僕が何かを話しても、けっして解決しないということである。
何か、もう少し違った言葉を話さないと、問題を解決できない。
何か、他に、話すべき言葉がある。
なんだろう。
違和感を感じても・・・それが当たり前だと思ってしまうと、どうにも出来ないんでしょうね。
人からどう思われても、好きならそれを譲れないし、貶されれば悲しい。
「普通と違う事」が普通になっている訳で、・・・自分の事とごちゃ混ぜになってしまう^^;
もうちょっと冷静な時にコメントするべきですな。反省。