南シナ海波高し―中国の自制求む
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- 2011/06/15 23:59:34
中国政府は先ごろベトナムとフィリピンに対し、中国が両国とそれぞれ領有権を争う南シナ海の海域で石油の探査活動を行なわないよう警告した。先月末に は、中国海軍の船舶がベトナムの地震探査船の調査用ケーブルを切断したとされている。フィリピン政府が中国に対して申し立てている苦情も同様に深刻だ。 フィリピン政府によると、中国はフィリピンの石油探査船を妨害して、領有権を争っている海域に石油掘削基地を建設するための物資の荷卸しを違法に行なった うえ、ベトナムの領空に戦闘機を送り込んだという。
半年間も行儀よく過ごすというのは、中国幹部にとって無理なようだ。中国は東シナ海と南シナ海でいくつも挑発事例を 起こし、米国のクリントン国務長官が昨年7月、東南アジア諸国連合地域フォーラムの場で公に厳しく批判してから、行動を控え、近年多くの成功をもたらした微笑外交に立ち戻ろうとした。だがもう我慢できなくなった。中国は近隣諸国を再び脅している。
中国政府はベトナムやフィリピンが共同探査をめぐる合意に違反したと主張しているが、国際社会は中国が自らの満足のいくように紛争を解決しようと、増大の一途にある軍事力を行使することに何の良心の呵責も感じていない。軍事力が増大するに従い中国は海域をめぐる領有権について譲歩するつもりはなさそうだ。
中国政府は10年間米国政府を試してきた。最近も、西太平洋で実弾演習を行なうと発表、日本と米国の軍事基地の近海で実施するとみられる。中国のこのところの行動を受けて、ベトナム政府は同国中央部沿岸で実弾演習を実施すると発表した。限定的とはいえ、実弾演習が行なわれれば不安さは増すばかりだ。
アジア諸国と米国は、中国の自己主張に対処する方法をまだ見つけ出していない。少なくとも3つの理由から正しく対処することは重要である。
まず、中国は意図的であるかないかにかかわらず、近隣諸国が自らの国益に関係なく中国の要求に従わざるを得ないと感じる状況を作り出してい る。そのような対応が当たり前になれば、中国はアジアの地域政治の性質を大幅に変えてしまっているだろう。
そうなれば、中国は際限なく他の要求もできるようになるだろう。その中には海洋開発計画への反対や航行の自由への干渉など、非現実的とも思えるものも含まれるだろう。そのような分岐点に達すれば、多国間による協力的な行動パターンにすぐに引き返すことは難しくなる。
第2に、中国が近隣諸国を威嚇したり妨害したりしても許されれば、北朝鮮のようなその他の破壊的な政府は、ますますつけあがり中国と同じよ うな行動に出ようとするだろう。その結果、ゆっくりと進んでいた地域の不安定化がさらに進み、自由主義の国にとって、国際ルールに従うと合意することがさらに困難になる。そうなれば、米国は人手も金も使い果たしつつあるというときに、安定の確かな守り手としての役割を維持するよう、ますます圧力を受ける ようになるだろう。
最後に指摘したいのは、中国の威嚇に対するベトナムの反応が示すとおり、小国は必ずしも黙って脅迫を受け入れるわけではない、ということだ。ゲイツ米国 防長官が今月、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で警告したように、軍事力を背景とするつばぜり合いや衝突の可 能性が増大するだろう。
中国の行動はすでに、さらに広い海域のインド太平洋地域で軍拡競争をもたらしている。海軍装備品の発注は過去数年間で劇的に増加している。インドだけで も、海軍の増強に500億ドル超の支出を計画している。一方、日本は潜水艦隊を増強すると同時に、航空機が離発着できるほど大規模なヘリ空母を建造してい る。
こういった事態によって米国の役割はさらに難しくなると同時に重要になっている。中国に不信感を抱き恐れているにもかかわらず、アジア諸国の中には米国 の側について中国とバランスを取ってもいいと考えている国はほとんどない。また、米国の同盟国の多くは今後、国防費全体を現状 の水準で維持するか削減することを予定している。
世界経済はアジアの安定と成長に依存している。しかし、近年の傾向を見るとアジアの未来が平和であるとの前提には疑問符がつく。半世紀にわたって驚異的な経済成長を経験したアジアは今、不確実性やそれ以上に悪い事態を恐れている。もし中国が大国として尊敬を集めたいと思うのであれば、自らの要求を抑え、自制心を持つことを学ばなければならない。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110615-00000009-wsj-bus_all