盗賊サラと、アヒンサカ
- カテゴリ:人生
- 2011/07/19 00:06:15
盗賊サラ続編。
「おや、それはたしかサラが熱心に書いていたモノだね」
と、ブッタは弟子の一人に聞く。
「ええ、そうです。『アングリマーラ』のことが、とても詳しく書かれてあります。今、彼がどこにいるのか、さえも」
「それは大変だ。急いでサラを追いかけなきゃ」
と、ブッタはサラの書いたモノを片手に走り出していった。
あと一人。あと一人殺せば、悟ることができる。
この世では味わえぬ幸福を手にすることができる・・・。
次に通りかかった奴だ。
誰で、あろうと・・・おっ。
少年か?・・・いや、少女だな。
14、5ぐらいか。顔だけ見ればもっと幼くも見えるが・・・。
ええい、かまうものか。
アングリマーラは、そう決心して飛び出した。
走って追いついたところで、剣を上段に振り上げて、振り下ろした。
血しぶきが上がるはずだった。
「アングリマーラか?ワタシはサラ。お前を喰らう」
声は後ろ斜めから聞こえた。
「ひっ」
逃げた。・・・何だ、突然、頭をえぐられるようなモノが・・・。
今度は前から・・・。右からも・・・左からも・・・。
何だこれは・・・。一歩でも動けば、殺される。
「今、お前が感じているのが『殺意』だ。お前に殺された者たちはみな、それを感じてきた・・・さあ、怯え苦しみ、いい声を聞かせておくれ。ワタシのいとしい、いとしいエサよ」
「ひっ。お助け・・・」
ああ、そう言った奴を何人か、殺したよな。
これが因果という奴か・・・。
それでも嫌だ・・・死ぬのは嫌だぁあああ
「どんなに叫んでも・・・助けてはやらん」
アングリマーラは後ろからとても懐かしい、「あたたかい気」を感じた。
前方にいた「サラ」の動きも止まる。
「ブーちゃん!どうしてここに!」と、サラは叫ぶ。
「うん。サラのことが気になってねw。たった一人で99人も殺した殺人鬼に会いに行くと、聞いたから。ついね」
「それがワタシの獲物だから・・・」
「うん。トカゲ女郎との約束だものね・・・。うんうん。だから、ボクと勝負をしよう、サラ。それならかまわないだろ?」
「いくらブーちゃんでも、勝負となったら手加減できないよ」
「いいよ、それぐらいでないと、張り合いも無いし。サラ。ここはボクを信じて・・・ね。」
「・・・・・・やっぱり、ブーちゃんは・・・・・・ううん。何でもない。わかった、信じるよ」
アングリマーラはただ戸惑っていた。
前方からの変わらぬ殺意。
後方からの何とも言えぬ懐かしい気。
一体この二人の勝負はどうなるのだろう。
ただわかっていることは・・・ブーちゃんと呼ばれる人が負けると、自分が死を迎えるということだけはわかった。
アングリマーラは殺人鬼であることも忘れ、ブーちゃんの勝利を祈った。
「行くよ、ブーちゃん」と、サラの掛け声で、戦いが始まる。
と、言っても・・・「気」の飛ばしあい。
達人レベルの戦いである由縁かもしれないが。
まだ二人に動きは無い。
サラは殺意を次から次へと作り出し、ブッタに飛ばす。
だが、どの殺意もブッタには届かない。
それどころか、やさしい気に当てられ、殺意を作れなくなりつつある自分に気づいた。
このワタシが負ける・・・。
ブーちゃんの「気」はこれだけ多いのに、どうして途切れることも無く、ワタシを包みこむのだろう。
とてもやさしい。懐かしい・・・何だろう・・・この感覚は・・・。
サラは膝を地面につき、ブッタを見上げた。
「完敗だよ・・・ブーちゃん。あれ・・・ワタシ、泣いてる・・・負けてくやしいのかな。ううん、それともうれしい・・・何だろうこれ、よくわからない」
「サラや。そのままでいいのですよ」と、ブッタはサラをそっと抱きしめた。
まるで母親が子を抱きしめるように、そっとやさしく抱きしめた。
一部始終を傍観していたアングリマーラは土下座をし、「私を弟子にしてください」と、叫んでいた。
すると、突如頭をなでられ、
「わかるかい?人を尊敬するって偉大なことなの。今の気持ち、大切にしな。んで、明日から市中を歩きな・・・そこで今日みたいに一人、人を尊敬して帰る。できるかい?」
「!!はい!!」と、アングリマーラはまた、叫ぶ。
「サラ。アングリマーラを手伝ってやってくれるかい?」
「・・・」と、サラはまだ泣いていたが、首だけでうなずいて見せた。
サラの心に、種が植えられた。
アングリマーラの心にもまた、何かの種が植えられた。
少しづつじゃけど、希望の光が…^^
ブーちゃんに会ってみたいなぁ♫