オトシブミ ③
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/03 14:56:25
母さんが死んでしまったのは6年前。
僕が4歳の頃だった。
ある日、まだ母さんが病気と戦っている頃、僕と父さんは車で母さんの病院に向かっていた。
その時父さんは、僕にこんな話をした。
「望、良く聞け。母さんは今とても強い病気と戦っている。誰のために戦っていると思う?それは父さんとお前のためだ。母さんが戦っている以上、父さんもどんな事をしても母さんを返して貰う。そして母さんも必ず帰って来る。それは約束だ。だからお前も約束しろ。母さんが帰ってきても、今必死になって戦っている母さんを、母さんの顔を、声を、忘れるんじゃない。お前のために戦っている、母さんの笑顔を、一生忘れてくれるな。いいか?望、これはお前と母さんとの約束だ。」
この約束から一週間くらいで、母さんは帰らなかった。
父さんは病室で、人目もはばからずに大声で泣いた。
何故だかわからないけれど、どうしてか僕は泣かなかった。
僕は母さんとの約束を守ろうと、その時心に誓った。
僕たちはキャンプ地から車に乗り、移動する事になった。
父さんが突然に“母さんに会いに行こう”と言い出したからだ。
どこに行くのか聞いても、父さんはいつものように答えてくれなかった。
車は藪の中の道から、やがてアスファルトで舗装してある道に出た。
曲がりくねったつづら折りの道を抜け、やがて山の頂のような場所に出た。
すっかり日が暮れた時間、その場所からは街の灯りが一望できたのだ。
それはまるで、キラキラと光る宝石を散りばめたような景色。
こんな綺麗な夜景を見たのは、僕は初めてだった。
「すごい!きれいだね~!父さん!」
「ああ、美しいだろう?ここへはな、母さんと結婚する前に来た事がある。つまり・・・まぁ・・・アレだ。父さんはここで母さんに、結婚しようって言ったんだ。」
「へぇ~・・・そんな話聞いた事無いよ!」
「お前なんかに言うか!ま、今言ったけどな。その日な、母さんとさっきの場所でキャンプをして、この夜景を見た。母さんもこの景色を気に入ってな、今度はお前を連れて来たいって、死ぬ前に言ってたんだ。」
「・・・母さん、僕来たよ。」
「おお、来たな。父さんな、ここには母さんがいるような気がするんだ。母さんはこの風景の一部になったような気がするんだよ。」
僕はポケットに入れたオトシブミを思い出した。
このオトシブミの揺り篭は、ここに置いて行こう。
そう思った。
僕は足元の草むらへ、オトシブミを放った。
「きっと元気に、成虫になってね!」
僕も何となく、この風景の中に母さんがいるような気がした。
“母さんの風景”を後にした僕たちは、キャンプ地へ戻ってきた。
父さんはもう一本のカップ酒を開け、タバコに火をつけていた。
時間はもう、23時を回っていた。
こんなに遅くまで起きているのは、もしかすると初めてかもしれない。
そして、テレビもゲームも無い夜が、こんなにも楽しく思えたのも初めての事だ。
何よりも、父さんとこんなにたくさん話をしたのも、初めてだった。
「明日も早いからな、もうそろそろ寝ろ。」
「うん、明日は何をするの?」
「食料調達だろ。そして運が良ければな、母さんの忘れ物を拾えるかも知れん。」
母さんの忘れ物・・・きっと聞いても教えてはくれないだろう・・・
と、そう考えているうちに僕は眠りについてしまった。
テントの中で眠りについた僕は、夜中に目覚めた。
枕元に何か置かれたような音がした。
父さんはクマのようなイビキをかいて、熟睡しているようだった。
とてもお酒臭かった。
僕は自分の枕元を見ると、そこには大きなオトシブミが置かれていた。
驚いて手にすると、それは僕の手の中ではらはらと解けて行った。
緑色の葉が解け、中を見ると一枚の便箋が入っていた。
そこにはこう書かれていた。
望、上を向きなさい。
テントの外を見ると、なにやら小さな光が動いていた。
真っ暗のはずの山の中。
蛍の様な明るさではない、もっと白い灯りがゆっくりと遠ざかって行くのが見えた。
「母さん・・・母さんなの?」
つづく
お知らせ
4回で完結させるつもりでしたが、書いているうちに長くなってしまいました。
最終回は第5回とさせていただきます。
ええ、一気に読んでね。。。
ついに本日完結編!
ワクワクします!!!!
そうですね~・・・でも、私はどこでプロポーズしたっけなぁ。
忘れてしまいました(自爆
車の中だったと思うのですが・・・
はい、オトシブミはこの物語の中で重要な役割を占めています。
少年が偶然見つけたこの昆虫の卵ですが
彼にこの後、大きなメッセージをくれる事になります。
はい、続きですよ。。。
そうですねぇ、愛する事は尊きかな。
一生に一度の愛を得るには、それ以上に愛さねばならないのかもしれませんね。。。
ま、この話はフィクションですから。
私が歩んでいる人生とは別物であります。。。
続きをどーぞ!
え?緩んだ?
すんませ~ん。
ええ、親子の愛がテーマです。
父の愛と、死んでしまった母の愛。
もう得られるはずも無い母の愛を、少年は不思議な体験から得る事になります。
続きをどぞ!
プロポーズの場所って特別ですもんね。
オトシブミが妖精のように思えてきた~
夏のいい思い出になりそうなお話ですね
続き楽しみにしています
招き猫さんのブログ読んでると、こんなに愛せる人がいらっしゃること、とてもうらやましく思います。
私も、生涯でこんな愛情、見つけられるかしら~^^
続き、楽しみにしてます!!
涙腺ゆるんできたじゃないですか~~
でも、なんでかな^^
不思議とあったかい気持ちになります
きっと、深い愛情が根底に流れているから・・なのかな
最初の・・・さぁ、どうですかねぇ~。
ウチの息子は忘れないと思いますよ。
ビデオがありますから。。。
続きは、明日のなるべく早い時間にUPしますね!
そうですか、涙でましたか、うっしっし。。。
涙を拭いて、続きをお待ちください。
息子くん、きっと一生忘れないと思います。
続き、待ってますね^^
続きをお待ちしております。