【『侵されざる者』(ダイアモンド)】(承前)‐4
- カテゴリ:自作小説
- 2008/11/19 10:08:26
「いったいどういった素性のお嬢様なんですか、あの方は!」
同居生活二日目で、早くも音を上げそうになった彼女は、同居人を検査室に送り届けたその足で、所長室に乗り込んだ。
「どうって…それは極秘事項だって説明したはずだけど?」
「それにしたって…彼女が今までどんな暮らしをしていたか、ぐらいの予備知識は与えてくれたっていいと思います!」
「どんなって……女が有り余っているこのご時世に、わざわざこんな怪しげな研究をしてる機関を頼ってまで「不妊」治療をしようっていう女性なんだから、「血筋大事」の家柄のお嬢様だ、ぐらいは想像してほしかったんだけどなあ」
自分が長を務める施設で行っている研究を、自ら「怪しい」と言い切ってしまう所長に、少々面食らったが、自分の事を揶揄しているのはわかったので、なおも言い募ろうとする彼女を制して、所長は言った。
「まあ、確かに、彼女が普通の育ち方をしてこなかったのを伝えなかったのは、こちらのミスだった。というか、こちらでも把握してなかったんだ、彼女が中世の王侯貴族並みに大勢の使用人にかしずかれて育った、なんて」
「おうこうきぞく……ちゅうせいの…」
「こっちとしては、彼女自身のデータに興味があったから引き受けたんだけど、世話するのがそんなに厄介なら、ちょっと考えた方がいいかな」
「あの…考えるって、それはどういう…」
「そりゃ、まあ、いろいろとね。とりあえず今日のところは、あと五時間ぐらいは検査にかかるから、その間は自由にしてくれてていいから。あ、連絡はいつでもつけるようにしておくこと」
そう言って、机の上の大量のプリントアウトに視線を戻す。
所長室は、いつも大量の紙であふれている。
噂ではそう聞いていたが、改めて見回すと、想像以上の量だ。
「他にも何か不満な点が?」
要件はすんだはずなのに、いつまでも退室しようとしない彼女に、所長が声をかけた。視線は書類の上に置いたまま。
「あ、いえ。ちょっと大量の紙に圧倒されてしまって。人生のうちで、こんなに大量の紙を見たのは、初めてかも、って…あ、お邪魔しました。失礼します」
そう言って慌てて退室する。
五時間、という中途半端に長い猶予をもらった彼女は、研究所からバスで一時間ほどのところの町にある自宅に戻ることにした。準備があわただしかったので、こまごまとした日用品の忘れ物があったから。
荷造りを一通り終えた彼女は、それまで努めて意識に上げないようにしていた部屋へ足を向けた。ここを引き払うことになったら、手放さざるを得ない、彼女のコレクションをおさめた部屋だ。たとえ手放したとしても、その価値を認めてくれる人はそう多くはいないだろう、と考えると彼女の胸は傷んだ。
ゆっくりと自分のコレクションを眺め、ほこりを払ったりなどした後、その部屋を立ち去ろうとし……ふと自分の「お気に入り」の一つを持って行くことにした。
小さな、親指の爪ほどの大きさの、ダイヤモンドの原石。
コレクションの始まりとなったちっぽけな石ころ。
彼女はそれをケースごと丁寧に布でくるんで、ポケットにしまいこんだ。
*****************************
……なんだか、書けば書くほど、予定していたゴールが遠ざかって行く気がする。これ以上過去に巻き戻さないようにしないと…
とても長いお話になりそうですね。
伏線がところどころにちりばめられているように感じています。
登場人物に名前がないのは、わざとかな?
この続きが大変気になってます。
日々お忙しいと思いますが、まぷこさんの創作意欲が消えぬことを祈っております。
お時間のある時にでも、どうぞ。
検索機能が欲しいねー。
時間がある時に また読みに来まーす。
ストーリーが…
もしかして、間が空いたので、書けば書くほどゴールが遠ざかってしまうのでは…
しかし、眠たい状態で読んだので、眠たくなってきた…
お休みなさい。。。