オトシブミ ⑤
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/05 09:04:29
僕は魚を釣りながら泣いていた。
初めて得た大きなチャンスを、ものに出来ない自分が悔しかった。
涙が僕の足元に落ちた。
ふいに僕は、夢の中で母さんがくれたオトシブミを思い出した。
望、上を向きなさい。
そうだ、上を向かなくちゃ。
僕は下ばかり向いていたんだ。
僕は顔を上げて上を向いた。
すると今まで立てる事が出来なかった釣竿を、上に立てる事が出来た。
魚はまだ僕の竿をグイグイと引っ張り続けていた。
しかし竿を立てる事により、やがて魚は水面にその姿を現した。
大きい!
父さんが釣った魚の倍以上はあった。
「よし、その調子だ、望!」
魚はその巨体をくねらせながら、足元まで寄ってきた。
ようやく父さんが網で魚をすくった。
「やったぁ~!」
網から尻尾が出てしまうほどの大物は、50センチほどの大イワナだった。
釣り上げるとそのイワナは、尻尾の所に大きな赤い斑点があった。
「望、コイツは母さんが釣り落としたヤツだ。母さんの忘れ物だ!」
僕は涙が止まらないまま、父さんに抱きついた。
「父さん、やったんだね、僕・・・」
「ああ、よくやったぞ。望!コイツはここの主だ。返してやらなきゃな。」
「うん!」
父さんは大イワナの針を外した。
僕は大イワナを抱え、水の中にそっと返してあげた。
彼は元いた滝の方へ、ゆっくりと帰って行った。
僕たちは竿をしまい、川を降りてキャンプ地に帰った。
そして僕たちは、父さんが釣ったイワナを塩焼きにして食べた。
僕はこの2日間の出来事を思い出しながら、父さんと話した。
しかし僕は、朝に見た夢の話は父さんにしなかった。
いつか僕が大人になってお酒が飲めるようになったら、父さんに話そう。
僕はそう思った。
食事が終わった僕たちは、テントを片付け帰る支度をした。
一切のゴミを残す事は、父さんが許さなかった。
川原は僕たちが来る前と同じように戻す事が出来た。
僕が車に乗ろうとすると、父さんが呼び止めた。
「おい、望、忘れ物があるだろう。」
僕は川原を探そうとした。
「ばかやろう、違う。この川に、山に、自然に、感謝をしなきゃならんな。」
僕たちは2人並んで、頭を下げながら声を揃えた。
「大変お世話になりました。ありがとうございました。」
僕たちは車に乗り、キャンプ地を後にした。
寝ていいぞ、と父さんに言われたけれど、眠る事は出来なかった。
とても眠いはずなのに、なんだか眠れなかった。
車の中で、僕は父さんに言った。
「ねえ父さん、また釣りに連れて行ってよ。」
「お前、味を占めたな。そうそう釣れるもんじゃねーぞ。でも今日は父さんの完敗だ。」
いや、そうじゃない。
今日は僕一人の力で、あの大きなイワナを釣った訳ではない。
と、僕はそう思った。
今日は僕と母さんと、2人で釣ったんだ。
母さん、ありがとう。
僕は母さんの約束を一生守るよ。
決して母さんを忘れやしない。
そして母さん、もうひとつ母さんと約束が出来たね。
その約束も、僕はこの先ずっと父さんと2人で守り続けるよ。
母さんがくれた、僕へのオトシブミ。
望、上を向きなさい。
完
エンディング・テーマ
http://www.youtube.com/watch?v=hxG_Ne8xxmg&feature=related
special thanks to
コメントを頂いた皆さん
おお、こんな時間までどうもありがとう!
そうですか、幻想から読んでくださったのね。
べびちゃんは大丈夫だったかな?
前のモノの方が良く書けていると私は思います。
今回のはショボい気がするんですけどね。。。
引き込まれていくって言われると、本当に嬉しいですよ。。。
ええ、何も気負って愛そうと思わなくても、きっと子への愛は伝わりますとも。
普通に愛し、普通に抱きしめればそれでいいって思います。
南の地に住む、友達同士のような親子に
いつかお会いしたいなぁって思います。。。
気になって全部読んでしまいました...
幻想のやつから全部...
素敵なお話でしたぁ(・∀・)★
続きが気になって仕方なくて...
引き込まれてしましましたょw
私も子どもにしっかり愛情伝えられるかな??
がんばりまぁす(´ω`)♪
読んで頂き、ありがとう~!
①から読み直します。
お返事、遅くなりました。。。
ここで今回の「オトシブミ」というワードを考えて見ましょう。
主人公の子が、たまたま拾ったこのオトシブミ。
何故かそれに興味を持つ子。
そしてそのオトシブミを、単に大自然の中の一端として教える父。
しかし、主人公はその小さな自然の中から、母を感じるのです。
一種類の昆虫の習性から見た、母の愛。
そして彼が見た夢。
彼は間違いなく、母に触れる事が許された夏だったのでしょう・・・。
頑なにまで自分の役割しか果たさない父と、その中にもしっかりと愛を感じようとする子。
この子が父を超える時、きっと父は涙するのでしょうね。。。
さえらさんのおっしゃるように、この夏のひと時で
きっと少年が、随分と父に近付く事が出来たのでしょう・・・。
このキャンプで父が「僕」に授けたものは大きいですね。
「僕」の中にある今は亡き母への想い、父との関わり、
そして、自分自身との向き合い・・・
「僕」は成長しましたね^^
言葉はキツイけれど自然の中で『生きることの根本』を教えてくれる父。
揺り篭(母親に通じるものがありますね^^)のようなオトシブミに『心を支える言葉』をくれた母。
これからも上を向いて生きていこうと誓った「僕」が、どんな大人になるのか楽しみです^^
はじめまして!
こんなシロートの戯言を、全部読んでくださってありがとうございます。
いやはや、お恥ずかしいしだいです。。。
瑠里奈さんもお書きになるんですね。
いずれお伺いしまして、拝見させていただこうと思います。
こんなものでよろしければ、他にも数作書いておりますので
ブログの同カテゴリをご覧頂けたらと思います。
また何かが降りてまいりましたら、書かせていただきますね。。。
今回初めて招き猫さんの小説を読みました。
すごくいいですね!!
感動しました。
私も小説を書いているのですが
うまく書けなくて^^;
招き猫さんの書き方、すごく読みやすいし
楽しかったです!
私もですね、自然を味わう事はとても少なかったです。
それでも年に一度か二度は、神奈川に住む叔父叔母従姉妹と共に
バーベキューに連れて行ってもらったりしました。
それはもう、めちゃめちゃ楽しかったですね。
初めて食べる天然のあけびの実や、どこまでも透き通った渓流の水。
初めて見るミズスマシという昆虫を、必死に捕まえたのを覚えています。
朱華さんも、この先そんな体験が出来るといいなって思います。
大切な人と一緒に。。。
コチラこそ、読破していただきありがとでした!
あら、読み返していただいたんですねぇ~。
どうもありがとうございました。。。
大人になるって、ちょっと微妙な感じですよね。
一抹の寂しさと不安、そして大きな期待感が交差します。
そんな体験を、この少年も味わった事でしょう。。。
母のいない子が、それでも父と共に成長して行く様を描いて見ました。
母の愛を与えてやれない事を嘆きながらも、必死にわが子を愛する父。
それに気付きつつ、成長して行く息子。
そして母からの思わぬプレゼント。
上を向きなさいという母からのメッセージは、この子にとってこの先生きる上での
大きなコンセプトになるのではないかと思います。
私たちも、この国のこんな状況の中、せめて上を向いて生きて行きたいですね!
全部読んでくださって、ありがとうございました。。。
そこに連れて行ってくれるような父でもありませんでした。
ちょっと、キミが羨ましいな、望クン。
無いものを数えずに、有るものを数えると
きっとヒトって幸せになれるんでしょう。
長い文章、ありがとう猫サン。
最初から読み直しました。
うん
『僕』は少しだけ大人になったんだよね。
来年もそのまた次の年もず~~と
その綺麗な自然があるといいなあ
きっと望君が、守ってくれそう
思い出のその地をず~っと・・
頑張って上を向けば、何でも乗り越えれそう
がんばろって思いました
長編お疲れ様でした┏○))ペコ
あ、バレましたか、姑息な手段。。。
とりあえず泣けなかった人は、コレで何とかなるかなぁと・・・。
終わり良ければ、全てよしってね!
ウチの息子とは、わざと年齢を違えて書いたんですよ~。
かぶさないようにって思ったんですが、カブってしまったのなら仕方無いっすねぇ・・・。
え?それも確信犯だろうって?
わっはっは!
気に入って頂けて、私も嬉しいです!
今、どんな状況に在ろうとも、向上心さえ失わなければ
人は何とかなりますよね。
望少年の母も、それを我が子に言いたかったのでしょう。
Goodbye Day・・・
私の大好きな曲です。。。
来生さんも、随分お歳を召されたなぁ~と・・・。
でも、甘~い歌声は健在ですねぇ。
歌詞もなかなか、この話に合っていると思いませんか?
また一日、新しい日にすればいい・・・。
あら、一気に・・・
そりゃお疲れ様でした。
本来は、イワナと言う魚はそんなに簡単に釣れるもんじゃないんですけどね。
釣りという楽しい出来事で、母を感じる事が出来た望少年は、本当にいい体験が出来たと思います。
自然に感謝。。。
それを教えるのが、父の役目かなぁって思いまして。
ええ、最初は羨ましがっていたオトシブミを
望少年も得る事が出来ました。
恐らく彼は、この先もずっと母を感じながら生きて行く事が出来るでしょう。。。
はい~長編でした~疲れましたぁ~。
もう、当分なんにも出て参りません。。。
実は少し前から、私と大の仲良しの方に
書け書けと突っつかれておりまして・・・。
ようやく約束を達成する事ができました。。。
エンディングテーマ・・・。
私が中坊の頃の曲ですから、かなり古い曲なんですよ~。
はじめまして!
最後まで読んでくれて、本当にありがとう!
おじさん、とっても嬉しいです。。。
このお話で、君が何かを感じて、そして何かを掴んでくれたらって思います。
君も素敵な夏休みになればいいですね~!
それから、おじさんの息子もね、君と同じ趣味を持っています。
鉄道が大好きなんですよ!
いつか一緒に、大宮に行けるといいですね。
次はいつ書けるかわかりませんが、頑張ってみようと思います。
そしたらまた、読んでくださいね!
ずっと出続けた「オトシブミ」というワードが、ここで母からのメッセージと言う形になりました。
ここが落とし所ってわけであります。。。
まぁ、一生懸命書きましたので、終わらせられて良かったです。。。
Goodbye Day・・・
かなり古い曲ですが、何となくこのラブソングが、この話に合ってるかな?って思いました。
いかがでしょうか?
ブッ飛ばそうかと思ったけどw
それ以前に、既に泣けたので許しておこう^^
いつの間にか出来上がっている
可愛いキアヌ君のイメージに、かなり助けられてるよねぇw
私も上を向きます><
キアヌくんとひまわりさんが見たら号泣ですね~、2人にとって宝物みたいな物語になりそう~~!
また、Goodbye Dayが沁みました~><
穏やかならばそれでいい・・・・・・
何か、いろんなことに感謝して、大事にしなきゃって思いました~!
お母さんと一緒に釣ったイワナ感激ですね。
自然に感謝、大事ですね。
見えなくても望君はお母さんの愛に包まれてるんですね。
何事も、上を向かなくちゃいけませんね・・・;;
そう、思いました。
そして自然への感謝。とっても大切なことです。
エンディングテーマまで用意されてるとは・・・♪
招き猫さん、さすがです(*^^)v
また話書いてください
ゆうせい
お父さんの想いも、ちゃんと受け止めているのですね。
素敵なお話をありがとうございます^^
Goodbye Day さびのところで分かりました。
優しい声で沁みますね~~