Nicotto Town


およよ・れおポン


沈殿する妄想

僕は空を飛んだことがない。
僕の経験した最も速い移動は、鉄道の時速約280キロくらいだろうか。

どんなに速く移動しても、それは、地面をなぞるだけ。
人間は、基本的に地面に張り付いている生物だ。

思い浮かぶ印象。
洗面器に水を入れ、おいておく。
その水は、さしたる栄養価も持たないはずなのに、洗面器の面に、ぬるぬるとした薄い膜ができる。
微生物が繁殖している。

僕は、中央線に乗って、東京から西へ山間部に入る。
それは、地形にそって細かく曲がる線。
山と山が接する最も低い部分の境界線に、ほぼ等しい。

洗面器を指でこすると、ぬるぬるは剥がれ落ちるが、傷の隙間は落とせない。

洗面器の底の、緩やかに波打つ曲面では、ぬるぬるは、より低い部分に厚さを増す。
これは、たやすく落とすことができるが、ぬるぬるもたやすく復元する。


僕は、飛行機に乗ってみたい。
乗客ではなく、一人で操縦したい。

自由でありたい。

上空の温度が低い層へ、入道雲がわきあがる。
沸騰する薬缶の湯煙が立ち昇るように、雲は無数の渦巻きがざわめいているだろう。

低空から近づき、雲を見上げたら、エレベータ

少しエルロンをあてて、白い波と青い空を半々に見えるように

そのまま駆けあがって、地面が遠くなったところで、もう一度エレベータ

背面に入るところでロールして、雲の無い空を少し見る

次の瞬間には、一回転して視界は真っ白い雲。

操縦桿をひいたら、全てが雲。

機体が振動する

地面が熱した暑い水蒸気が渦巻いている。

白いのに、外より少し暗い。
青空はとても明るいけれど、白くはない。

雲の表面はとても白い。
そして、雲の中は不思議だ。

白いのに暗いのだろうか
それとも、灰色なのに、
とてもまぶしいのだろうか。

機体が振り回されて、自分の場所も、向きもわからなくなる。

どこかが軋む音
小さなエンジンがプロペラにかかる負荷で唸る

それなのに、飛行機は喜んでいるような気がするのは

錯覚だろうか。

白が、より白くなる

不意に 全てが青くなる

操縦桿をまわすようにして、エルロンとエレベータ
大きなターンで、再び雲が見える。

いちど全ての舵をニュートラルに戻して
白い壁に沿うように、少しだけロール

スロットルを下げて、フラップを少し出す。

飛行機はくつろいだように
ゆったりとした降下

気まぐれに雲と反対側へロールしてみると、遠くに緑の山
下には灰色の人間

洗面器に苔がこびりつくように
微生物が繁殖するように

地面は薄い膜で覆われている。

多くの生物は、薄い膜を作って生きている。

鳥でさえも、ほとんどの種は、地面から少ししか離れられない。
動物プランクトンのようなもの。


もう
帰ろうか

薄い膜の中へ
僕は帰ってゆく

#日記広場:自作小説

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2009/05/07 21:55
「きりもみ」ちゅうより「スパイラル」だなあ、動きとしてもそう言ったほうが正しいなあ。
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2009/05/07 21:48
空を飛ぶということなら、もしかしたら、パラグライダーが一番、空気を感じられるのかもしれないけれど、もう少し積極的に動けるほうがいいな。
曲技飛行なんて自分には無理だし、テレビでしか見たことはないけれど、
滑走路をロウパスして、一気に垂直上昇、
ストールターンからきりもみで落下して、再びロウパス、
そういう姿を見ると、プロペラ機がいちばん飛行機らしく、人間らしい気がします。
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2009/05/07 21:07
私も、空を飛びたい。飛行機を運転したい。
上空で安定して等速直線運動をする際は、止まっているように思えるのが好きです。

森博嗣氏よりは恋愛小説寄りになってしまいますが、「とある飛空士への追憶」という本がラピュタみたいで好きです。
そして宇宙へ行く、というテーマになってしまいますが、「猫の地球儀」という本も好きです。
これは私の好みですが。




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