Nicotto Town


日記ときどきお題。。。


treasure of alphabet 1

「…何、これ」
世間では初秋といっても9月の関東は暑い。
2時限目に体育が終わり、まとわりつく制服をパタパタと動かすことで心ばかりの風を制服の中に送りながら一番に教室に戻ると、机の上に先程まではなかった紙切れがおいてあった。
「私の机はごみ箱じゃないんですけどー」
眉間にしわを寄せた倉本優里がつまむように紙切れを目の高さまで持ち上げる。
「誰かからのお手紙かもよ?優里」
優里は声の主の方を振り向く。
「手紙が窓開けっぱの教室の机の上になんの重石ものっけずにおいてないでしょ。未来はポジティブに解釈しすぎだよ」
一瞬にして自分の考えを却下された市原未来は高校2年らしからず頬を目一杯膨らませる。
「でも、その紙なんか書いてあるじゃんっ!!」
「え?」
紙をゴミ箱に捨てに行こうとしていた足を止め、裏返してみると、確かに何かが書かれ…否、描かれていた。
「……地図…?」
「…地図だねぇ」
「地図だな」
いるはずのない第三者の声に優里と未来が驚いて振り返る。
「「咲!!」」
二人の後ろには暑そうにペットボトルのふたを開け、紙を覗き込む幼馴染、高田咲がいた。
「男子もう終わったんだ」
「ああ、今日は珍しく速かったな。てか何それ。パッと見、宝の地図みたいじゃん」
紙には優里たちが通う校舎を上から見たような図とその真ん中に×印が描かれていた。三人が紙切れを囲みながら首をかしげていると、他のクラスメイト達が「暑い、疲れた」などと文句を言いながら教室に入ってきた。
「ん?なんだこの紙」
その中で一つ異質の声が聞こえた。三人が声のした方を見ると、けだるそうに椅子に座り、同じような紙切れを同じように目の高さまでつまむように上げ、睨みつけるように見ている男子生徒がいた。
「竜、それ見せてくれない?」
「あ?ほらよ」
柏木竜は振り返り、もう一度紙を見てから訝しげに紙を渡してきた。その紙には今度は絵ではなく文字だけが書いてあった。

『Ladies&Gentlemen
 行く先々での試練を乗り越え 我々の宝を目指したまへ
                                    B             』

三人はその文を見たまま固まっている。覗き込んだ竜が「なんだこれ?」と眉をひそめ優里が持っていた紙を取った。
「ん?裏にもなんか書いてあんぞ。…『参加者数は最大5人』だってよ」
顔を見合わせる四人。
「…私たちに宝を探せってこと?」
「みたいだな」
「お宝ってなんだろうねー」
「え?てか俺もやんの?」
「「「え?」」」
竜の場にあわない問いに三人が一斉に竜を見る。もちろん目は驚いて見開かれたままだ。
「…このままいけば、優里と竜君はほとんど強制じゃないかなぁ。二人の机に置いてあったんだし」
「そもそもなんで優里と竜の机に置いてあったかも謎だけどな」
「マジかよ…」と竜が頭を抱える。
「とりあえずこの話は昼休みにしよう。あと2分で次の授業始まるし」
優里の一言に同意し四人はひとまず席に戻り午前を終えた。


「んで、どーすんの」
昼休みに放課後探すことにしようという結論にいたった四人は地図に描かれた場所、学校の中庭にある開校時に植えられたという樹齢62年の大木の下に来ていた。そこで四人が見つけたものは小さな箱。そしてその箱の中にはまた小さな紙が二枚入っていた。
「これは次の場所かな?でも校舎の形してないね」
「この細長いのは渡り廊下じゃない?だとしたら体育館とかじゃないの?」
優里と未来が一枚の紙を見ている間に咲と竜がもう一枚に目を通す。
「てか、それ以前の問題っぽいぞ」
咲の言葉に優里と未来が紙から顔をあげる。
「どういうこと?」
「ミッション、だってよ」
言いながら竜が持っていた紙を優里たちに見せる。

『第一関門へようこそ。
 ここでは腕立て、腹筋、背筋、スクワットを各50回ずつやっていただこう。
 もちろん我々は常に君たちを監視しているので不正など考えないように    』

その文を見た優里は顔をしかめる。
「なにこれ。誰やんの。てかもうこの時点で帰りたいんですけど」
「えー?これ一人でやるの?みんなで分担してやってもいいのかなぁ?」
早くも帰りたそうにする優里に対し、未来はやる気満々だ。
「みんなでって…未来が一番できないだろう?」
「てか、こういう雑用系にめっちゃ向いてる人私知ってるかも…」
「…俺、アイツ呼ぶなら降りんぞ。うぜぇし」
「でも優里が呼んだらすぐ来るしやりそうだよな」
竜が反対する中、三人は目的の人物にメールを送る。数分もせず『行く!!』との返信が来た。

「愛しき優里ちゃんのためー!日下拓馬只今参上や!!」
その登場の仕方に未来以外の三人は呆れ、顔をしかめる。
「うぜぇ…早くやらせろよ…」
「日下君、私たち宝探ししてたんだけど、関門があるみたいで…お願いできるかな?」
「優里ちゃんの頼みとあらばー!!」
この笑顔が消えるまで残り15分。





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