Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(5)

 治療院へ行くと、ちょうど夕食を配るところだ、というので、ついでに配膳の手伝いをする羽目になった。とはいえ、今入院しているのは三人だけなので、一人分ずつ手分けしただけだが。
 夕食を持ってセシリアの部屋に入ると、ちょうど目を覚ましたところのようだった。
 「具合はどうだ?」と声をかけると、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
 「夕食の時間だが、食べられそうか?」
 「んー……なんかちょっと……だるい、かな。スープだけでいいや」
 食事のために体を起こすのを手伝ってやっていると、ドアを叩く音がした。案の定、クリスだった。
 「こんにちは。こんばんは、かな。お食事の時間にお邪魔してすみません」
 「……誰?」
 全く、「誰?」だ。やろうと思えば丁寧に喋れるじゃないか。しかもさっきまで出し惜しみしてた笑顔が大盤振る舞いだ。
 「えーと、事情があって、当分の間学内での事を面倒を見ることになった新入生、だ。名前は、クリスティーナ」
 「彼女さん、とかじゃなくて?」
 「ばっ……そんなわけないだろうが。釣り合いってもんが…」
 「んー、今のところ、そういう気配はない、かな。まだ一週間しか経ってないから。お兄さん、なかなか手ごわくて。こんな可愛い妹さんがいたんじゃ、しょうがないか」
 ……いったい何を言い出す気だ?
 「で、お近づきのしるしに、と思って、お見舞いを持ってきたんだけど。どうぞ」
 そう言って例の派手な布袋を差し出す。
 「…あたしに?」
 「そう。体が弱くて、ベッドで過ごすことが多い、って聞いたから、気晴らしになればいいな、と思って。開けてみて」
 「…いいの?」
 セシリアがこちらを向いて訊く。
 「良いも悪いも…もらったのはお前なんだから。それに、どうやらこの人は、どうしてもそれをお前にもらってほしいらしい」
 わーい、と言ってセシリアが開けた袋の中から出てきたのは、「味がある」とか「少し残念な」といった感じの、手製らしい人形が一体。セシリアの顔が少し曇る。
 「まあ、あまりお気に召さない、かな。ちょっと貸してね」
 そう言ってセシリアに持たせたまま、人形の方に顔を寄せて、何事かつぶやく。
 と、人形の中にいた何かが飛び出してきて、あたりをぐるぐると飛び回る。動きが早いので、確とは判らないが、エアリアルとかシルフ辺りの、飛ぶものであるのは確かだ。
 「容器っていうのは……この人形も含めて、のことだったのか?」
 「そういうことになる、かな。預けるだけのつもりだったけど、あの子が手懐けることができるなら、あげてしまってもいい、かなあ……」
 いや、それは無理だろう。いくら素質があっても、セシリアにはそれを制御するだけの体力がない。
 クリスが中空に手をのばして、何事かつぶやくと、飛び回っていたものが、彼女の腕にとまった。驚いたことに、それは翼竜の幼生、のように見える。もしそうだとしたら、とてもセシリアに御せるような代物ではない。
 「幻獣使い、だったのか?」
 「母はね。私もそれを目指してたんだけど」
 幻獣憑きが幻獣使いの技を使うことは難しい。「証」をどうにかしたくなるのももっともだ。
 「せっかく呼べば飛んで来るとこまで懐いたのに。手放さなきゃならないなんて、悔しい」
 「…きれいだねぇ………ねぇ、この子、何て名前?」
 翼竜に見とれていたセシリアがそう訊ねる。
 「種族名なら、「リンドブルム」。個体名は……母は「ちびちゃん」って呼んでた」
 「母は?だったら、クリスはなんて呼んでるんだ?」

#日記広場:自作小説

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2009/09/01 03:36
 なるほどプレゼントが翼竜(幻獣)の幼獣でしたか。



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