treasure of alphabet 3
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/27 02:00:34
屋上の扉を開けた五人はそこに突っ立ったまま止まっていた。この鍵もかかっていない誰でも入ることのできる屋上のど真ん中に箱がぽつんと置かれていたからだ。
「…他の人が持って行っちゃう可能性とかは考えなかったのかね、この差出人は」
「まぁ、結果的に持っていかれてはいないんだからいんじゃね?」
そろそろと箱に近づいていく五人。
「でも中が無事かどうかは開けてみんことにはわからんで」
「じゃあお前がさっさと開けろよ」
促された拓馬が四人の方を見る。
「……俺?」
人差し指を自分に向けている拓馬の眼には、心なしか不安の色がみてとれた。
「フッ…なんだよお前、ビビってんのか?」
竜が意地悪そうに言う。
「ちゃうわボケ!…せやけどさっきからようわからんことさせられてるし、この箱開けたらどうなるかわからんやん」
「まぁなー。3つ目の箱にたどり着いてもわからないことだらけだよな」
「ていうより、何かわかったことがあるかっていったら無いよねー」
咲と未来が話し始めた横を優里が通り過ぎ箱に手をかける。
「そんなこと言ってたって仕方ないじゃん。開けるよ」
優里の声を合図に五人が箱を取り囲んだ。優里が四人の顔をゆっくりと見る。
「…いくよ」
五人が息をのみ、箱のふたが上昇していく――――
「…はぁ」
屋上に寝転がり空を見上げる五人。
「ホンマ…ため息しか出てこんわ」
「マジなんなの。差出人どいつよ。俺一発ぶちかまさねぇと気がすまねぇ」
五人が先程、期待と不安を胸に開けた箱の中身は
数えきれないほどの
チョコレートと飴の山だった。
「ま、まぁチョコも飴も美味しいし、宝探しの景品としてはとっても素敵だよ?ね、咲!」
「俺に振るなよ…こんなの景品に高校生に宝探しさせるってホントなんなの。てか実際量多くね?何?めっちゃあまってたから暇つぶしに宝探しさせてみました的なノリ。俺、今日の部活休んでまで探したんですけど」
「そんなこと言うたら俺かて優里ちゃんからメール来て途中で抜けてきたっちゅーねん」
「こんなことで抜けてきてんじゃねーよ」
「なんやと!!もっぺん言ってみい!!」
竜と拓馬が言い争いを始めたそばで一言も発せず優里は空を眺めていた。3つ目の箱には大量のチョコと飴の他に紙が一枚入っていた。
『お疲れ様でした。
お気に召していただけたでしょうか?
我々が皆様の余暇を少しでも潤すことができたのであれば幸いです。
それでは皆様ごきげんよう。
B 』
悪気があったわけではない。それはわかる。この差出人が少なからず優里たちを楽しませようとしていたのもこの文面からは読み取ることができよう。しかし、肝心の差出人の正体も意図もわかってはいなかった。
(大体、お気に召していただけたでしょうか?ってなによ。お気に召すかどうかとかの問題じゃないでしょうが。第一・第二関門でやらされたのは単純に重労働レベルのいじめじゃない)
優里の眉間にどんどんとしわが寄っていく。それに気づいた咲が拓馬を止めにはいった。
「拓馬。優里の顔がやべぇ。その辺にしとけ」
言われた拓馬がつかみかかっていた竜のシャツを離した。
「ゆ、ゆゆゆ優里ちゃん?怒ってる?怒ってるん?」
優里は拓馬を横目で見てから起き上がり制服の汚れを落とした。
「怒ってない。いや、怒ってるけど」
「ええ?どっちなん?」
「日下君の言い方は自分に怒ってるか?でしょ?日下君には怒ってない。差出人に怒ってる。大体、窓開けっぱの教室に紙きれ一枚重石も乗っけず置いてあることがそもそもおかしいのよ。中庭の木のふもととか体育館裏とかこの屋上にしたってねぇ、人の目につきそうな所ばっかに、そんなことしなくても目立ちそうな箱なんか置いて…他の生徒とかの目に入らない方がおかしいんだっつーの。要するによ?最初に紙を置いた時も、この箱含めたあと二つも、私たちが来る直前に置かれたってことよ!てか差出人はそこまでしてたんなら私たちの今までの行動も全部見てたってことで、結局終わってみれば奴らの手の上で踊らされてたってことで…」
一人で喋り始めた優里を四人が呆然と見つめる。
「倉本が切れた…」
「お、おい優里…」
咲が優里を止めようとした瞬間よりいっそう優里が大きな声をあげた。
「こんなことさせた奴!どうせ近くで聞いてるんでしょ!暇つぶしならねえ、もっとマシなこと考えなさい!!疲れることさせんじゃないわよ!こっちはねぇ、つまらない授業何時間も受けた後にわざわざ探しにきてやったんだからねー!!」
学校中に聞こえそうな大声に咲と竜が二人がかりで止めに入る。
「ちょ…倉本!うるせーから!どっからこんなにでかい声でんだよ?」
「…優里は滅多にキレねーんだけど、キレるとすげーんだよね、昔から」
まだ不満そうにしている優里を未来が必死に宥める。
拓馬はその光景をまだ一人呆然として見ていた。