プロローグ 処刑台
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/28 23:25:57
順番おかしいけど。
処刑台。
「死」が眼前に迫っていた。暗黒。闇。
いや、闇よりもなお暗き闇なのだろうか。
ボクの生命活動は、まもなく終わりを告げようとしている。
ハルモニア城の大広間。シャンデリアに今、ボクは命の最後の瞬間を照らし出されている。
銀色の門が目に映った。城門へ続く門だ。ああ、あっちの通路はヨシュアと一緒に遊びに行ったり、かくれんぼをした植物園と続く廊下…まっすぐ行くと、ヨシュアの書斎もあったっけ。植物園の南には礼拝堂があって、よく一緒に神父様に怒られたっけ。左に見える階段を上がれば、ヨシュアのアトリエがあって、よく一緒に絵を描いたよな。三階に行くと近衛兵たちに見つかって、どやされた。
一階の厨房でも、食材を盗んで怒られたよな。ヨシュア…キミは優しい王子様のはずだった。父親の病気を治すために…貴金属を集め、仮面を作ってからおかしくなった。皇帝を名乗り、魔王を名乗り…父親を自らの手で殺した。そして…今…キミは城にいる人間を魔族に変えている。キミは本当に魔王になってしまったのかもしれない。
「49。」ボクの番号だ。
ボクは死刑台へ続く、階段を上がり、「魔王」の前に立った。
ヨシュア…キミにはもうボクはわからないのかい?
ボクは黒い仮面の下に見えるヨシュアの真紅の瞳を見つめてみた。
反応は何も返ってこない。身も心も魔王に成り果ててしまったのか。
ヨシュア!
気づくとボクは叫んでいた。
「その名で呼ぶな!余はヴァルモンドなるぞ!皇帝ヴァルモンド。魔王なるぞ!」
「何度でも呼んでやる!ヨシュア!!」
「ヨシュア、ヨシュア、ヨシュア!!」
「……。ヤメロ…ルゥ…助けて」
「!!!」
「ヨシュアぁあああああ」泣いていた。涙が止まらない。止まるわけがない。ヨシュアはボクのことを覚えていた。ヨシュアが覚えていた。嬉しい。
「余は魔王。小賢しいぞ、49番」
ボクの中の時間が止まった…ああ、これは「魔王」だ。ヨシュアじゃない。
鷲づかみにされて身体を持ち上げられ、何かが注入されている。
ボクは魔王の顔を見た。血の涙を流している。
泣いている。「うわぁああああ」ヨシュアは叫んでいる。「ヤメロ……何故貴様に……ルゥ。力を半分あげる…だから助けて」
赤い魔剣が現れ、ボクの胸の中へ消えて行った。「名はレヴァンティン。呼べばきっと君を助ける。だから…ルゥ。生き残って」
「ヨシュアぁああああ」
「僕の最後の力で君を転送する…。ルゥ、僕を忘れないで」と、顔半分だけ笑っていた。顔半分は怒っていた。黒い仮面が透けて見えたわけじゃない。ボクはそう感じた。
今、魔王とヨシュアは戦っている。
忘れないぞ、ヨシュア。ボクは忘れない。
ボクは手を伸ばした。だが、その手はヨシュアには届かない。
転送の魔方陣は徐々にボクを包んでいく。視界は闇に覆われた。上に上がるでもなく、下に下がるでもなく、右へ左へ移動すると言うことも無い。ただ静かに闇が開くのを待つしかなかった。
闇の中でボクは目からあふれでる熱いモノを拭こうともせずに、声を上げて叫んだ。ヨシュア…。今はただ叫んでいたい。
いとしい名を…。
順番おかしいけど。読みたい人は読んでね。
基本フィクションです。
あい