「契約の龍」(17)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/14 03:27:45
「とにかく、この、どこに隠れているかも分からず、呼んでも返事をしない馬鹿龍を何とかしないといけない」
…ついに「馬鹿龍」呼ばわりだ。
「ところで、この馬鹿龍の素性が何者で、どんな事ができるのか、を私は全然知らない、という事に気づいた」
「…クリス」
「そこで、王国史を徹底的に調べて、この馬鹿龍が何物か、を調べたい、と思う」
「…クリス」
「そこで私は一週間ほど図書館に籠って王国史と馬鹿龍のことを調べるので」
「クリスティーナ姫」
「…何だ?」
「お腹立ちはごもっともだと思いますが、仮にも王国の守護をする幻獣を、「馬鹿龍」呼ばわりされるのは、国民としてどうにも心苦しく思います」
「アレク。この馬鹿龍が守護しているのは、ゲオルギア王家だ。正確に言うと、始祖ユーサーの子孫、だ。王国を守っているように見えるのは、国王がその様に力を使っているから、にすぎない」
「それはそうですが、せめて「馬鹿」の部分は小声でお願いします。使用中の閲覧室には他の人が入ってきませんが、声が外に漏れないとは限らないんですから」
「私の言う「馬鹿龍」がユーサーの龍のことだとわかるのは、アレクくらいのものだ。だから、聞かれても大丈夫」
…だめだ。怒りのあまり、聞く耳を持たない。
「はいはい。で、どこから始めますかね」
「まずはユーサーの一代記あたりから始めるのが筋だろう。どんな生い立ちで、どこで龍を得たのか。どんな業績を残したか」
「それだけで一週間使い果すくらいあるが。ユーサーについての本は」
「……そんなにあるのか?」
「開架室に百冊強。書庫にはざっとその四倍」
「それを片っ端から読む、というのは……」
「無謀な上に得るものは少ない、と思う。とりあえず何冊か見つくろってくるので、ここで待っててください」
「ああ、それから、「金瞳」持ちが何人いるかわかる系図、か何かがあれば、それも」
「はいはい、系図ね」
閲覧室を出るところで、ふと気がついて後ろを見る。
「そういえば、クリス、髪切った?」
「……あの、阿呆どものせいで、切るはめになった。今頃気付くな」
どういう事情かはわからないが、至極ご立腹のようだ。
系図を見つけるのに思いのほか手間取ってしまい、閲覧室に戻ったときには、小一時間ほどが経過していた。クリスは待ちくたびれたのか、机に突っ伏してうたた寝をしていた。
持ってきた本を机の上に置いたが、ぴくりとも動かない。様子を窺おうと顔を覗き込んだが、腕の陰になって見えない。
…まあ、昨日の今日なので、そっとしといてやろう。
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